"昭和29年、夫を亡くした私から船が奪われた" 第9話
「組を潰す気か」
「がなくなったら困るのは俺らだぞ」
「細かいことをへ持ちしたら、町の仲買まで逃げる」
志津はずつ話を聞いた。彼らのにも理由があった。共同で氷を買い、油を仕入れ、魚をまとめて売る仕組みがなくなれば、さなほど困る。
「潰したいんじゃありません」
志津は同じ答えを繰り返した。
「借りたなら払います。でも、払ったまで借にされたら、いつまでたってももも自分のものにならない。それを確かめたいだけです」
その夜、澄が志津へ冊の古い計簿を持ってきた。
「これ、正さんのところだけじゃないよ」
昭27のページに、源の借返済がかれている。漁協の精算と比べると、やはり度払ったはずのが翌の残へ戻っていた。
志津はそこで確信した。
正のを取り返すだけでは終われない。
数字を曖昧なままにした仕組みそのものを変えなければ、次に夫を失った女も、同じように「まだ借がある」と言われる。
志津は井へ、正の借について正式な内訳をいてほしいと求めた。元、返済済み額、現残、徳蔵が保証として支払った額、それぞれを分けるよう頼んだ。井は「そんなものをに作っていたら仕事にならん」と拒んだ。
「では払えません」
志津が言うと、井は目を見いた。
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「借を踏み倒す気か」
「違います。何を払うか分からないは払わないと言ってるんです」
志津は持参したを机へ置いた。そこには自分が確認した返済額と、未確認の1万2000円を分けていてある。徳蔵が実際にて替えたと確認できた分については、しずつ返すも記した。
さらに志津は、の登録続きをめるため必な類をしてほしいと求めた。井は「徳蔵との話が終わるまで無理だ」と言ったが、志津は役所で聞いた内容をそのまま伝えた。
「借があることと、の相続続きをさせないことは別だそうです」
「役所のは浜をらん」
「だから浜のことは浜で話します。でも、役所の続きまで井さんが止めることはできないでしょう」
帳には数の漁師がいた。井は以のように「女だから」と言い切れなくなっていた。
そのの午、徳蔵が志津のへ来た。
「俺の名まで組ですな」
「保証なんだからます」
「俺がを取ったみたいに言われとる」
「私はそんなこと言ってません」
「同じだ」
徳蔵は苛っていたが、以のように信夫を寄こせとは言わなかった。志津が数字を調べ始めたことで、自分の帳面にも説できない部分があるとったからだ。
志津は徳蔵のへ枚のを置いた。
確認できた替残額は6400円。
ただし漁協の1万2000円については保留。
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「この6400円は返します。毎500円ずつ。売がいは増やします」
徳蔵はを見てを鳴らした。
「兄弟のに領収まで取る気か」
「取ります」
「俺を信用せんのか」
「信用だけでやったから、正がんだあと誰も分からなくなったんです」
徳蔵はい黙っていた。
やがて、「500円じゃ以かかる」と文句を言いながらもを持ち帰った。
数、最初の500円を払うと、志津は徳蔵に領収をかせた。徳蔵は何度も「面倒な女だ」と言ったが、最には印を押した。
志津はそのを、正の箱ではなく自分の帳面へ挟んだ。
夫の名ので暮らすのではない。
これから払うも、受け取るも、自分で確かめる。
それが志津にとって最初の「自分の商売」だった。
5の終わり、志津の魚売りはようやく毎週決まった曜に町へけるほどになった。源と清吉のほか、3の漁師が量ずつ魚を回し、町では20軒ほどのが待つようになっていた。料理の女将からも「魚をまとめて持ってきてくれれば蛮漬けにする」と注文が入った。
そこで井は、別のを使った。
漁協の総会で「共同販売を乱す為」について話しい、組員が継続に志津へ魚を回す、共同購入の優先順位をげるという申しわせをしたのだ。名指しこそされなかったが、誰のことかは全員分かった。
翌朝から、魚を持ってくる者は源と清吉だけになった。
志津はにも無理をするなと言った。
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