"昭和29年、夫を亡くした私から船が奪われた" 第11話
志津は初めて聞く話だった。
正もまた、今の売り方に疑問を持ち始めていた。
の借を調べ、販売方法まで考え始めたところで事故に遭った。
志津は徳蔵を疑うのではなく、別のことを考えた。
正が途まで考えていたことを、自分はらずに続けているのかもしれない。
井から呼びしが来たのは6半ばだった。役所から登録について照会があり、漁協としても志津の扱いを決めなければならなくなったという。さな会議には井のほか、組と役員3、徳蔵が座っていた。
「の相続については、組がをす話ではない」
組は最初にそう言った。
「ただし組員として操業することと、共同販売所を使うことは別だ」
志津はうなずいた。
「条件を教えてください」
役員のが定款をき、区内にみ、定数以漁業を営む者または従事する者などの条件を読みげた。志津は結婚にも漁をしており、結婚も正が病気のや繁忙期には何度もへ乗っていた。
「女は駄目と、どこにいてありますか」
誰も答えなかった。
井が苛ったようにを挟んだ。
「いてあるかどうかじゃない。今まで女を正組員にしたことがないんだ」
「それなら、『できない』じゃなくて『したことがない』でしょう」
会議が静かになった。
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志津は続けた。
「私は特別扱いしてほしいんじゃありません。必な数がりないなら働きます。資が必なら払います。の登録もします。条件をつずつ言ってください」
組は井を見た。
井は答えに詰まった。
そこで徳蔵が突然、「俺は反対だ」と言った。
志津は義兄を見る。
「正の借が残っとる。だけ志津へ渡して、返済が止まったら俺がかぶる」
その言い分には筋があった。
志津は用していた封筒をした。には徳蔵への返済500円の領収が3枚と、今の返済予定をいたが入っている。
「返済は止めません。むしろ今までより分かる形で払います」
さらに志津は、問題の1万2000円についても説した。組側の控除と貸付残が致しないため、その部分だけは精査してほしい。もし正当に使われただと確認できれば払う、と言した。
組は初めて井へ厳しい目を向けた。
「帳簿を調べろ」
井は「古い帳面だから」と言い訳した。
「古いから分からんでは、借りた側にだけ払えとは言えん」
会議はそのでは終わらなかった。
しかし帰り際、組は志津へ正のの鍵を差しした。
「相続の決着がつくまで勝に処分はするな。操業については登録と組の続きを確認してからだ。それでも、井がで持っとる理由はもうない」
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志津は鍵を受け取った。
夫がんだ翌朝、何の説もなく取りげられた鍵だった。
のひらへ戻ってくるまで、2かくかかった。
けれど志津はそので勝ち誇らなかった。
鍵を握っただけでは魚は獲れない。
魚を獲っただけでは売れない。
そして売れたとしても、数字をへ預ければ、また同じことが起きる。
本当に取り戻さなければならないものは、隻よりきかった。
漁協の帳簿調査が始まると、問題の1万2000円の方はったよりく分かった。6000円はの台、共同で購入した網資材の分へに振り替えられ、もう6000円は発部品の共同仕入れへ回されていた。
そのものが誰かの懐へ消えたわけではなかった。
だが問題は、その処理だった。
本来なら正の貸付返済へ充てるとして引いたを、本への分な説なしに別の費用へ回し、貸付残だけを元へ戻していた。正は「6000円払った」とい、漁協は「別の費用へ使ったから借は減っていない」と扱っていた。
それが2回。
計1万2000円。
井は「浜全体を回すためだった」と主張した。
志津はそれを全面に否定しなかった。化で網が傷めば急に資材がいるし、油や氷がりなくなることもある。共同で買うことでくなるものもい。
「でも、使うなら言ってください」
志津は会議で言った。
「返済として引いたを別へ回したなら、そのにいてください。正はぬ3かまで、自分の借が6400円だとっていました」
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