みかん小説
本棚

"午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる" 第1話

消灯のエレベーター

午217分。

階病棟の廊に、い子音が響いた。

夜勤護師の倉田由は、ナースステーションで点滴表を確認していたを止めた。消灯からすでに以が経ち、廊の照も元灯だけに落としてある。急患の搬送でもなければ、このに病棟用エレベーターが階でくことはほとんどなかった。

チン、とい音がする。

扉がいた。

由は計を見た。

217分。

「救急からがってくる予定、あった?」

隣で記録をいていた輩の相原美咲へ尋ねる。

「ないです。転棟も今夜はゼロですよ」

「ご族?」

「面会、とっくに終わってますけど」

由は席をった。

病棟では、篤な患者に限って夜でも族の面会を認めることがある。ただしそのは階の警備から必ず連絡が入り、護師がエレベーターまで迎えにる決まりだった。

今夜、その連絡はない。

廊へる。

いたエレベーターのには誰もいなかった。

瞬、空のまま扉がいたのかとった。

しかしを見ると、し先にがあった。

女性だった。

黒いコートを着ている。

代半か代くらいに見えた。肩のあたりまである髪にはいものが混じっており、には鞄もも持っていない。

女性はゆっくりと廊をんでいた。

「すみません」

由が声をかける。

広告

女性は止まらない。

「面会の方ですか?」

返事はなかった。

由はを速めた。

女性が止まったのは712号のだった。

そこには久世修という71歳の男性患者が入院している。

性な呼吸器疾患が悪化し、数に救急搬送された患者だった。齢以に痩せ、酸素チューブをつけているが、識ははっきりしている。医師からは族への連絡を勧められていたものの、本は「必ない」と繰り返していた。

女性は病へ入らなかった。

半きのドア越しに、をじっと見つめている。

「ご族ですか?」

由がもう度尋ねた。

その、女性が初めて振り向いた。

暗い廊だったため、顔までははっきり見えなかった。

ただ、怖い表ではなかった。

むしろしそうに見えた。

女性は由へ軽くをげる。

そして病へもう度目を向けた。

何かを確かめるように数秒ってから、元来た方向へ歩き始めた。

「待ってください」

由は追いかけた。

エレベーターの扉がく。

女性が乗る。

由がメートルほどまで来た、扉が閉じた。

壁の表示を見る。

。

数字が変わるのを待った。

にもにもならない。

のままだった。

「……え?」

数秒。

表示が消えた。

由はボタンを押した。

扉がく。

には誰もいなかった。

「倉田さん?」

美咲の声が背からした。

「どうしました?」

「今、女性が……」

由は言いかけて止まった。

広告

自分でも説の仕方が分からなかった。

「黒いコートの。712号のにいた」

美咲は首を傾げた。

「私、誰も見てません」

「ナースステーションから廊、見えるでしょ」

「はい。でも倉田さんがで歩いていったのしか」

由はエレベーターのを見る。

空だった。

「階に確認して」

警備へ話を入れた。

数分、返ってきた答えは簡単だった。

「午零以、階への面会はも通していないそうです」

それでも由は、自分が見違えたとはえなかった。

712号へ戻る。

修は眠っていた。

なくとも、そう見えた。

酸素チューブをつけたまま、規則に呼吸している。

由が静かにドアを閉めようとした。

「倉田さん」

ベッドから声がした。

由は振り返った。

修の目がいていた。

「起きていたんですか」

「しから」

「具、悪くないですか?」

「丈夫です」

修は廊の方を見た。

「今、誰かいましたか」

由のが止まった。

「……どうしてそううんですか」

修はしばらく黙った。

「音がしたような気がしたから」

「女性の方です」

その瞬。

修の表が変わった。

「どんなでした」

声が、先ほどよりくなる。

由は迷ったが答えた。

「黒いコートを着ていました。髪は肩くらいで……代か代くらいに見えました」

修は目を閉じた。

そして、さく息を吐いた。

「そうですか」

「おりいですか?」

修は答えなかった。

翌朝。

由が申し送りを終えて病へくと、修はベッド脇のさな引きしから枚の写真をした。

古い写真だった。

男女。

旅先らしい辺。

修の隣に、の女性がっている。

黒いコート。

肩までの髪。

由の背にたいものがった。

「この……」

昨夜の女性だった。

修は写真を見たまま言った。

「妻です」

それから数秒。

さらに続けた。

「にくなりました」

---

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: