"昭和24年、帰還した夫の家に別の夫がいた" 第3話
父親になれなかった
清太はその夜、初枝夫婦のへ泊めてもらった。
卓には麦飯と芋の煮物、それにさな焼き魚が並んだ。浩は吉の隣へ座り、学の話をしている。
清太のらない浩だった。
「先がまた字を違えた」
「おが読めてないだけじゃないのか」
「違うよ。みんな言ってた」
吉が笑う。
浩も笑う。
清太は箸をかしながら、その会話を聞いていた。
戦にいた頃、自分は何度も「息子が待っている」とった。
息子も同じように自分を待っていると、勝に信じていた。
だが子どものは、のとは違う。
浩には清太を待つためのいさえなかった。
翌朝。
学へく浩が玄関で靴を履く。
「ってきます」
「ってらっしゃい」
初枝。
「転ぶなよ」
吉。
浩は清太を見なかった。
清太も無理に声をかけなかった。
がをっていく。
その背が見えなくなってから、清太はちがった。
「帰ります」
初枝が驚いた。
「浩を連れていくんじゃなかったの?」
「今は無理です」
「清太さん……」
「俺には、あいつをわせるも仕事もない」
にすと、ひどく惨めだった。
しかし事実だった。
「父親だから連れていくって言うだけなら簡単です」
清太は吉へをげた。
「もうし、ここに置いてください」
吉は何も言わず頷いた。
町へ戻った清太は、文子のへかなかった。
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駅の職業紹介所。
港。
倉庫。
。
働ける所を探して歩いた。
復員者はかった。
体を壊している者もいる。
族を失った者もいる。
帰るそのものがない者もいる。
「何ができる」
港の荷役の親方に聞かれた。
「何でも」
「何でもってのが番困る」
清太はを握った。
「戦争へくは械にいました」
「は?」
「きます」
嘘だった。
寒さで傷めた指は、朝になると特にかなかった。
それでも仕事をもらった。
最初はだけ。
翌も呼ばれた。
荷を担ぐ。
縄を引く。
箱を運ぶ。
が痛む。
誰にも言わなかった。
宿をて、港くの畳を借りた。
布団。
さな卓袱台。
鍋。
茶碗。
それだけ。
週。
清太は再びへ向かった。
今度は「連れて帰る」と言わなかった。
学が終わるまで庭先で待った。
浩は坂をってきて清太を見ると、骨に嫌そうな顔をした。
「また来たの?」
「ああ」
「何しに」
「顔を見に」
「この見たでしょう」
「週だ」
清太は包みをした。
には蜜柑がつ。
港で荷主からつ余計にもらい、さらにつ買いした。
浩は受け取らなかった。
「物を持ってくれば父ちゃんになれるとってる?」
清太の顔がくなる。
「ってない」
「ならいらない」
「分かった」
清太はそのでつ剥いた。
べる。
顔をしかめた。
「酸っぱい」
浩がちらりと見る。
「本当に?」
「ああ」
「じゃあいらない」
初枝が縁側で笑いを堪えていた。
清太もしだけ笑った。
それが父子が初めて交わした、何でもない会話だった。
帰る。
浩がろから呼んだ。
「ねえ」
清太が振り返る。
「戦争って、どこにったの」
「いところだ」
「がる?」
「最にいたところは、嫌になるほどった」
「熊は?」
清太は吹きした。
「熊は見てない」
浩もし笑った。
だが次に、突然聞いた。
「本当に、帰ろうとしてた?」
清太から笑みが消えた。
「何?」
「母ちゃんたちが、父ちゃんは帰れなかったって言うから」
「誰かは、俺がおを置いていったって言ったんだろ」
浩は答えない。
「浩」
はのへ逃げるように入った。
そのの帰り。
清太のには、同じ疑問だけが残った。
浩はなぜ、自分が「捨てられた」とっているのか。
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