"昭和24年、帰還した夫の家に別の夫がいた" 第5話
届かなかった通
次の曜。
清太はいつもよりくへ向かった。
初枝は清太の顔を見ると、事を察したようだった。
「文子から聞いた?」
「途まで」
「そう」
「俺に言えないことがあると」
初枝はしばらく迷った。
やがて、
「吉さん、納のの箱を取って」
と夫へ言った。
吉が持ってきたのは、さな箱だった。
紐がかけられている。
初枝が蓋をける。
には古い封筒が何通も入っていた。
茶く変している。
清太は番の封筒を見た瞬、息を止めた。
自分の字だった。
《佐伯文子様》
「……これ」
が震えた。
通。
通。
通。
全部、自分が戦や収容先からいたものだった。
「なんでここにある」
「文子のにあった」
初枝が答えた。
「届いてたのか?」
「全部じゃない。戻ってきたものもあるし、何も遅れてまとめて届いたものもある」
清太は封筒を数えた。
通。
自分はもっといた。
それでも通が残っている。
「文子は読んだのか」
「何通かは」
「浩は?」
初枝が黙った。
清太の胸がざわつく。
「初枝さん」
「、浩がこれを見つけた」
清太の指が止まった。
箱はもともと押し入れに隠されていた。
まだ字を分に読めなかった浩は、初枝のへ来た、封筒の差に父親の名があることだけを理解した。
「読んでくれって頼まれた」
「誰に」
「私に」
清太は通をく。
い。
古い鉛。
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自分がいた文章。
《文子へ。浩は元気か。俺は帰る。いつになるか分からないが必ず帰る。浩に、父ちゃんはおを忘れていないと伝えてくれ》
清太は途で読めなくなった。
「これを……浩は」
「聞いた」
初枝が言った。
「だから、余計に混乱したの」
父親は「帰る」といている。
母親はしい男と暮らそうとしている。
自分は伯母のへ預けられた。
歳の子どもには、そのつをうまく理できなかった。
「浩は言ったの」
初枝の声がくなる。
「父ちゃんは帰るっていてるのに、どうして僕を迎えに来ないのって」
清太はを握りしめた。
「俺はその頃、帰れなかった」
「分かってる」
「浩はらない」
「そう」
清太は顔を覆った。
そして突然、あることに気づいた。
「待て」
初枝を見る。
「浩は俺が帰るってっていた。それなのに、なぜ俺が捨てたとった」
初枝の表が曇った。
「最の」
「何?」
箱の番。
通だけ、別の封筒に入っていた。
清太はいた。
自分の字ではない。
役所から文子宛てに届いた通だった。
部隊の状況から、清太が戦した能性がいという内容。
正式な認定ではない。
だが当の族にとっては、分すぎるほどいだった。
そのの裏に、文子の字でくかれている。
《浩には、父親はもう帰らないと話す》
清太の喉が詰まった。
「浩はこれも読んだのか」
「からね」
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「誰が読んだ」
「私」
「なぜ」
初枝は唇を噛んだ。
「浩が聞いたから」
清太は目を閉じた。
父は帰ると言った。
母は「父は帰らない」といた。
その、自分は伯母のへ預けられた。
浩は自分なりに答えを作った。
父は帰ると言ったのに帰らなかった。
母も自分を放した。
なら、自分は両方から捨てられたのだと。
「浩はどこだ」
「川」
清太はった。
初枝が呼び止める。
「清太さん」
「話す」
「何を?」
「全部だ」
「歳の子に、抑留だの戦通だの全部背負わせるの?」
清太のが止まる。
「じゃあどうしろ」
「父親なら考えて」
その言が胸へ刺さった。
吉が静かに言った。
「正しい説をすることと、子どもが受け止められる説をすることは違う」
清太は箱を見る。
通。
自分が帰ろうとしていた証拠。
これを浩へ見せれば、
「父ちゃんはおを捨てていない」
と証できる。
だがその瞬、
「母ちゃんが嘘をついた」
と息子にわせることになるかもしれない。
清太は初めて気づいた。
自分の無実を証することが、必ずしも息子を救うことではない。
そしてそのの夕方。
川辺で浩を見つけた清太は、通のを持ちながら――
通も見せなかった。
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