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"昭和53年、棟梁が俺を毎晩残した理由" 第2話

掃除ばかりの

翌朝、棟梁は夜の稽古について言も触れなかった。俺も聞けず、いつもどおり箒を持って作業の隅から掃き始めたが、夜に傷つけた杉板が気になって仕方がなかった。板は捨てられず、削り台のにてかけられていた。俺がその傷を見つめていると、田さんがを止めた。

「目を逆らって削ったんだろう。力がりないんじゃない。見てないんだよ」

田さんは歳で、棟梁のでは最も古い職だった。には隣町で独することが決まっており、朝から晩までつの現を掛け持ちしていた。俺が「見るって何をですか」と尋ねると、田さんは板の端にあるさな節を指し、そこからる目の向きをなぞってみせた。

田さんは俺に枚の杉板を持たせ、片方を窓際へ、もう片方をへ置いた。数に反り方を見比べろと言われ、俺は毎朝、掃除のに板の端を確かめた。同じ杉でも取りと乾き方できが違うことをり、板をただの角い材料として見られなくなった。棟梁はその様子を見ていたはずだが、やはり何も言わなかった。

「はきていたものだ。こっちの都で真っすぐにはなってくれない。親方がおに掃除をさせたのも、板の顔を覚えさせるためかもしれんな」

その言葉に素直にはうなずけなかった。

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掃除での顔が分かるなら、世のの僧はみんな名になっているはずだとったからだ。それでも、のから俺が捨ててきた鉋屑の形が、職によって違っていたことをいした。棟梁の屑だけは幅がそろい、へ落ちても切れずにくつながっていた。

俺はそのの午、掃除をしながら職ごとの鉋屑を分けてみた。太くい屑がい所では荒削りをし、くい屑が積もる所では仕げをしていた。掃き捨てるものだとっていた屑が、どんな仕事をしたかを教えてくれると気づいた。棟梁が何も言わずを見ている理由も、しだけ分かった気がした。

具棚には置く位置が決まっており、俺はかけてつずつ覚えた。鋸の歯をむきしにしてはいけないこと、鑿を湿ったへ置かないこと、墨壺の糸を汚れたまま巻かないこと。最初は細かな決まりに腹をてたが、忙しい現で必な具がすぐに取れるのは、その順番が守られているからだった。

目の、俺は度だけ務を辞めようとしたことがある。町の製材所で働く同級に会い、もうをへ入れていると聞いたのことだった。俺の遣いはわずかで、母に送るも棟梁が預かって末に渡す決まりだったから、何を覚えたとも言えない毎が急に惨めになった。

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荷物を呂敷に包んでいると、おさんが戸にち、「はになるよ」とだけ言った。

翌朝、本当にがった。俺が作業のを掃いていると、棟梁はいつもよりくへて、材置きの根からを落とし始めた。俺が伝おうとすると、「につな。落ちてくるのさを見ろ」と叱られたが、昼になって俺の袋が濡れているのを見つけると、母の縁側へ替えを置いていた。

あのは親切なのか悪なのか、俺には最まで分からなかった。だからこそ、目に入った途端に鉋を握らせた理由が理解できず、田さんに尋ねた。先輩は作業台の向こうで墨壺の糸を巻きながら、珍しく答えに迷ったような顔をした。

「俺だって目まで刃物を持たせてもらえなかった。急ぐ理由があるんだろうが、親方が言わないことを俺から聞くな」

その夜、俺は昨の杉板を裏返して削った。今度は刃がしだけみ、い屑が指のさほどた。棟梁はそれを掌に載せてへかざし、「まだい」と言ったが、板を捨てろとは言わなかった。

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