"昭和53年、棟梁が俺を毎晩残した理由" 第4話
の癖を見抜く
に入ると、隣の松浦から築の仕事がい込んだ。古い農の母がので傾き、若夫婦と幼い娘、それにのい祖母がして暮らせるを建てたいという依頼だった。棟梁は松浦信さんの話をい聞き、図面より先に、祖母が普段どこへ座り、台所から厠まで何歩かかるのかを尋ねた。俺はというのはを切って組むだけの仕事ではないのだと、そのとき初めてった。
松浦の旧は、祖父の代から何度もを入れて使われていた。梁には昔のが刻んだ番付が残り、台所の柱には子供の背丈を測った鉛の線がいくつもあった。取り壊すと決まっていても、信さんはその柱だけは残せないかと尋ねた。棟梁は構造に使い回せるかを確かめ、無理ならしいの別の所へ残す方法を考えると答えた。
俺は古い柱を運びながら、がく使われるとはこういうことなのかとった。はただを防ぐためだけにっているのではなく、そこで暮らしたの記憶まで抱えている。だからこそ、棟梁はしい材の本にも妥協しないのだろう。そう考えたとき、掃除しかさせてもらえなかったも、し違って見えた。
松浦の台に使う檜が製材所から届いた、俺は本だけの割れ方が気になった。
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から見ると真っすぐなのに、片方の輪が極端に詰まり、材の腹にさな反りがていた。俺が運搬を止めて田さんに告げると、製材所の男は「僧に何が分かる」と笑った。
騒ぎを聞いた棟梁は材の端から端まで眺め、へ置かせて糸を張った。わずかな隙が見え、俺は息をのんだ。棟梁は製材所へ交換を頼み、「材を見てから運べ。い物を何度もかすのは腕じゃなくの無駄だ」と俺に言った。
初めて自分の目が役にった。それでも褒め言葉はなく、俺が笑いかけると棟梁はもう別の材を見ていた。
交換を頼んだ材は、建までの予定を考えると余裕のない納期だった。製材所の男は渋い顔をしたが、棟梁は「このまま使ってあとで困るより、今ここで話をつける」と言った。俺はつの材を見つけたことで期まで変わるのだとり、自分の言葉のさに急にになった。棟梁はそのを見抜いたように、「見つけたなら最まで確かめろ」とだけ言った。田さんは帰り、「今のはよく見たな」と声で言ってくれたが、俺はその言を素直にべなかった。棟梁に認められなければ、どんな仕事も半分しかできた気がしなかったからだ。
そのの夜、棟梁は鉋を俺へ渡さず、松浦の図面を作業台へ広げた。祖母の寝から厠までの通りに鉛で線を引き、「柱本ずらせばは歩きやすいが、根のさはどこへ逃がす」
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と尋ねた。俺は答えられず、図面と実際の材を何度も見比べた。棟梁は面倒そうにため息をつきながらも、荷を受ける柱と梁の関係をつずつ指でたどらせた。
翌、松浦さんが期を尋ねると、棟梁は「の建までにはにわせる」と答えた。普段なら職の都にわせて余裕を取るが、今回はを譲らない。田さんも議そうな顔をしたが、棟梁は「清吉が独するに骨組みをてる。それだけだ」と言い切った。
その晩、おさんが医者からの封筒を戸棚の奥へしまうのを、俺は偶然見かけた。声をかけると彼女は笑って「暑気あたりの薬だよ」と言ったが、封筒を持つはし震えていた。俺は廊で見た棟梁の息づかいをいし、初めて、夜の稽古とあのの体がどこかでつながっているのではないかと考えた。
夜、帳面にそののことをいていると、最初の頁に自分でつけた「掃除」の文字が目に入った。俺はまで、掃除をしたには何も学んでいないとっていた。しかし屑の違いも、材の反りも、に残る跡も、毎見ていたから気づけたのだ。棟梁が何を考えていたのかは分からなくても、俺が見てきたものは無駄ではなかった。
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