"昭和53年、棟梁が俺を毎晩残した理由" 第5話
までに渡すもの
の初め、田さんが隣町の借りた作業へ具を運び始めた。独すれば自分の板で仕事を請け、弟子も雇えるかもしれないと話す先輩はるかったが、棟梁ときりになると急に数が減った。俺は自分だけが残されるのだとい、夜の稽古が厳しくなった理由を勝に決めつけた。棟梁は働きが減る分を、のい俺に押しつけようとしているのだ。
田さんの独が決まってから、務には細かな修理の依頼も増えていた。樋を直す、建具を調する、に納の戸を替えたい。棟梁はきな事を抱えたまま、昔からの客を簡単には断らなかった。俺はその予定表を見て、夜の稽古が終わっても、これから先ずっと休めないのではないかと怖くなった。
方で田さんは、俺が疲れているのを見ると昼の運搬をし代わってくれた。「親方の教え方は荒っぽい。でも、おが倒れたらがない」と言い、仕事のにをむよう何度も注した。俺は先輩に礼を言いながらも、どうして棟梁自は休まないのかと考えた。あのだけが、何かの終わりを先にっているようだった。
その夜、棟梁は松浦の平面図を広げ、台の本を指で押さえた。「ここから墨を入れてみろ」と言われ、俺は驚いて顔をげた。
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墨付けは材を刻むにさと仕の位置を決める切な仕事で、本違えばの柱も梁もわなくなる。俺が「田さんがやるんじゃないんですか」と尋ねると、棟梁は差しを俺のへ押し込んだ。
「このは、おが墨を打て。俺は横で見る。違えたらそので直す」
がくなり、が汗で滑った。嬉しさより、失敗したときの叱責が怖かったが、俺はので寸法を拾い始めた。棟梁はをさず、違えた線を自分で見つけるまで待っていた。夜半にようやく最初の台の寸法がうと、あのは「は実物だ」と言い、図面を畳んだ。
片づけの途、棟梁が母へ呼ばれた。机に残された程表には、松浦の建のがとかれ、そのに「墨付け 直」「刻み確認 現造」とあった。俺の名が棟梁の字でかれているのを見て胸が震えたが、さらにの余には「清吉独、直に残す具」と記されていた。
そのには、鉋、鑿、差し、墨壺と、具の名が細かく並んでいた。俺は自分が使ったことのあるものに目をらせたが、まだ教わっていないものもかった。棟梁はただ作業を伝わせるのではなく、次に何を覚え、どの具を扱えるようにするかまで決めていたのだ。嬉しい気持ちと、そんなに急いで何を渡すのかという恐ろしさが同にこみげた。
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そのとき、障子越しにおさんの声が聞こえた。「まだの子だよ。までに全部なんて、無理をさせたらかわいそうだよ」。返事はくて聞き取れなかったが、しばらくして棟梁が「だから、今夜もやるんだ」と言った。俺は息をひそめ、程表から目をせなくなった。
続いて、おさんが、いつもとは違う震える声で尋ねた。
「先に言われた半を、あの子のために全部使うつもりなのかい」
俺は障子のからけなくなった。半とは何の期限なのか、先とは誰なのか、どうして俺の稽古と結びつくのか。棟梁は返事をしなかったが、障子の向こうで激しく咳き込む音がして、俺がっているよりずっとい何かが、このに隠されているのだと初めて分かった。
俺は程表を元の位置へ戻し、音をてないよう作業の戸を閉めた。部へ戻っても、鉋を握ったが震えていた。、棟梁に問いただせば何かが変わるのか、それとも今までのように叱られるだけなのか。布団ので考え続けた末、俺は答えを聞くに、まず自分の墨を正しく引けるようになろうと決めた。
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