みかん小説
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"昭和53年、棟梁が俺を毎晩残した理由" 第10話

本も狂わなかった柱

、建のになって、午からいが吹いた。組みげる材はすでに現へ運ばれており、俺たちはに備えて覆いを確かめ、と仮置きの位置を見直した。田さんも自分の仕事を終えて駆けつけ、の段取りを棟梁と話しった。職たちが帰ったあと、俺だけが墨付け帳をいていた。

帳面には何度も消した跡があった。最初は寸法を拾うことさえできなかった俺が、今は本ごとにの癖や仕の向きをき込んでいる。棟梁が隣へ来ると、俺は「、わなかったらどうしましょう」と尋ねた。棟梁は「わなければ止めて直す。それができない奴に建は任せん」と答えた。

「られますよね」と言うと、棟梁はしだけ眉をげた。「が曲がるよりましだろう」。その答えがあまりに当然で、俺は笑いそうになった。棟梁も元をわずかにかしたように見えたが、すぐに帳面へ目を戻した。

夜が更けると、おさんが棟梁を迎えに来た。夫は「あとつ確認する」と言ったが、彼女は「もう分だよ」と譲らなかった。俺は初めて「ここは俺が片づけます」とにした。棟梁は何か言いかけ、結局、差しを俺へ渡して母へ戻った。

になった作業で、俺は差しを布で拭き、棚へしまおうとした。だが、その属には何も使い込まれた指の跡があり、田さんが言った「親方のは何分も覚えている」

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という言葉をいした。俺のには、まだにも満たないしかない。、その差がではっきりするのだとうと、怖くて眠れなかった。

夜け、作業の戸がく音がした。棟梁は普段よりし遅い取りで入ってきて、俺が片づけた具をつずつ確かめた。俺が「体は丈夫ですか」と尋ねると、「おの墨のほうが配だ」と言った。その声はいつもどおりだったが、朝に照らされた横顔はひどく痩せて見えた。

棟梁は発、俺の肩を度だけ叩いた。「現では、俺の顔を見るな。自分の線を見ろ」。俺はうなずき、墨付け帳を胸へ抱えた。い夜がけ、いよいよ俺の引いた線が空へちがるが来た。

松浦の建には、朝から隣の職が集まった。田さんも加わり、柱や梁を順に組みげる準備がんだ。俺は材に付けた番付を確かめ、墨付け帳と照らしわせながら、必な本を職たちへ渡した。周囲には俺より何も経験のあるばかりで、誰もが棟梁の指示を待っていた。

最初の柱が台へ納まったとき、胸の奥がくなった。本目、本目とち、横架材がつながっていく。ところが奥の部で本の梁がわずかに入りにくくなり、職のが槌をく振りげた。俺はわず「待ってください」と叫び、墨付け帳を持って駆け寄った。

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梁の向きはっていたが、湿気でがしき、仕の当たりがくなっていた。俺がそう説すると、配の職は眉をひそめたが、棟梁はれた所から「直に見せろ」と言った。俺は当たる所を確かめ、必なところだけを慎に調した。再び梁を納めると、無理な音をてずにぴたりと収まった。

昼までに骨組みは半分以ちがった。松浦さんがれたところから見守り、祖母は何度もをわせていた。佳奈ちゃんが「もうおうちなの」と母親に尋ねる声が聞こえ、俺は初めて、自分が削った材の先に暮らすたちがいるのだとくじた。仕事は具とだけで完結しないのだ。

夕方、最の梁が納まると、職たちのから堵の声ががった。きな狂いはつもなく、柱は予定どおりにち、根を支える骨組みが空のへ姿を現した。田さんが俺の背を叩き、「おい、直。おの墨、本も狂ってねえぞ」と笑った。俺は笑い返すより先に、棟梁の姿を探した。

あのはしれたところで、組みがった梁を見げていた。俺はづき、「棟梁、どうでしたか」と聞いた。やり直しと言われる覚悟もしていたが、できれば度だけ、よくやったと聞きたかった。棟梁は梁から目をし、俺の顔を見た。

そのまま何も言わず、背を向けた。

俺は追いかけられなかった。田さんたちの笑い声がくなり、朝から握りしめていた墨付け帳だけが急にくじられた。はったのに、俺のではまだ何かが終わっていなかった。棟梁が帰っていくろ姿は、これまで見たどの夜よりもさく見えた。

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