みかん小説
本棚

"賞与0円を告げられたので、会社を辞めてイタリアへ" 第11話

持ち運べる暮らし

退職して最初の曜、私は目覚まし計を鳴らさずに起きた。いつもの刻に目が覚め、無識に会社の予定を確かめようとして、もう端末がないことに気づいた。台所でお湯を沸かし、卓にマンションの売却条件を広げる。田がまとめた諸費用の表には、仲介数料、ローン完済続き、引っ越し費用が細かく並んでいた。元に残る見込み額は約百万円。きな額ではあるが、遊んで暮らせる額ではない。

私は購入希望者と条件を詰め、契約に専へ類を確認してもらった。売却代で宅ローンを完済し、残りを活再建の資にする。退職と預をわせても、で収入がない期には限度がある。語学学の費用、滞先の賃、医療保険、税、本へ戻るための予備費を分け、なくとも分は別座に残す計画を作った。イタリアへくことは逃避ではなく、自分で引き受ける選択にしたかった。

を放すは、最に母が通っていた病院のをった。正面玄関の壇はしくなっていたが、送迎が止まる位置は変わっていない。母は退院の見込みがないと分かったも、助席に座ると窓のをよく見ていた。「あの、まだあるのね」と言って、通り過ぎるパンの板を指さした。

広告

私はその声をいし、信号が青になってからゆっくりをめた。

買い取りで鍵を渡すと、員は丁寧に類を確認した。私はの写真を枚だけ撮り、ナンバープレートの写らない角度で保した。母とのいを残すためにそのものを維持し続ける必はない。帰り、久しぶりにの窓からを見た。運転しないことにし自由さをじたが、その自由さもしい活の部だとえた。

マンションの売買契約がまとまると、部のには段ボールが増えた。仕事の専は必な数冊だけ残し、会社の資料や名刺は規程に従って返却・処分した。母の料理本には、い鉛で「砂糖なめ」とき込みがある。私はその本と写真、さな鍋を持ってく箱へ入れた。ほかの具は譲渡先を探し、使い切れない物は処分する。物を減らすたび、私は何を切にしていたのかを選び直していた。

渡航の続きはったよりが掛かった。語学学の受け入れ類、滞期にう査証の確認、保険、現の居契約、の連絡先変更。イタリアでく暮らすためには、観客の気軽さだけではりない。私は必な窓へつずつ問いわせ、認められる滞条件を確認した。会社ではいつもの類を揃えていたが、今回は自分の名でめる続きだった。

広告

旬、引き渡しが終わった。部の鍵を渡す、私は空になったリビングの真んにった。母が訪ねてきたに座っていた子も、夜に仕事のメールを読んだ机もない。窓のには同じが広がっているのに、私がそこへ戻る理由はもうない。寂しさはあったが、悔とは違った。私は最に窓の鍵を確かめ、玄関の扉を閉めた。

空港へ向かう夜、織がさな事会をいてくれた。彼女は「帰ってきたくなったら帰ってきなさい。くへくことと、帰る所がないことは別だから」と言った。私は頷き、イタリアで何をするかはまだ決めていないと正直に話した。織は笑って「決めないを持つためにくんでしょう」と返した。その言葉を聞いて、私は初めて退職の自分を急いで説しなくてもよいとえた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: