みかん小説
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"母の小さな食卓" 第4話

見えなくなった台所

翌朝、母は壁にをつきながら階段をりてきた。を踏みさないように段ずつ確かめ、最の段でようやく息を吐いた。私がを差しすと、「まだでりられる」と笑ったが、その笑顔はし張っていた。まで、母は庭のに脚をて、梅を収穫するほど元気だった。

朝の支度を伝おうと卓を片づけていると、聞のから病院の封筒が滑り落ちた。母は「古いものよ」と言って拾おうとしたが、私は表に印刷された科の名を見てを止めた。には診察結果と、内障の術を勧める説が入っていた。付はのだった。

「母さん、目の術を勧められていたのか」

母はしばらく黙り、窓のへ顔を向けた。「急ぐほどじゃないと言われた気がするの」と言ったが、説には、見えにくさが活に支障を来しているは再診して相談するよう記されていた。私は医師でもないのに、その枚で母の状態を決めつけそうになった。だから、なぜ受診をやめたのかだけを聞いた。

「術をするなら何度も病院へ通うでしょう。付き添いも必になるかもしれないし、おもかかるとってね。悠の学費が終わってからでいいとったの」

「も待ったのか。事も、よく見えないから作らなくなったのか」

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「包丁で指を切ってから、細かいものが怖くなったのよ。煮物は加減も分からなくなるがあってね。欲がないって言ったのは、直に余計な配をかけたくなかったから」

私は昨の漬物をいした。母は自分の欲が減ったのではなく、台所につことをしずつ諦めていたのだ。りんごを箱も買うがあるなら術を受ければよかった、と言いかけてみ込んだ。母にとって、孫へ送るものを選ぶことは、自分がまだ誰かの役にてる証しだったのかもしれない。

「どうして、俺に言ってくれなかった」

母は膝ので両をねた。「あんたは男だからって、ずっとしてきたでしょう。私も、それを当たりにしてきた。今度は母さんがする番だとったのよ」。私はすぐに答えられなかった。母が昔の言葉を覚えていたことにも、その償いとして自分の目を犠牲にしようとしたことにも、胸が痛んだ。

母は以、煮物の鍋をにかけたまま、計の針が読めずに焦がしたことがあると話した。焦げた匂いで気づき、慌ててを止めたが、それ以来、のはなるべくを使わなくなったという。私は蔵庫が空にかった理由を、ようやく別の角度から理解した。母は節約していただけではない。危ないことが起きても、誰にもらせず暮らし方を狭めていたのだ。

「の順番なんて、もうやめよう。今、科へ話する」

母は「そんな急に」と言ったが、私は説にある番号へ話をかけた。の診断で今の状態は判断できないため、まず再診が必だと受付のは教えてくれた。翌の午に予約が取れたので、私は会社へ休暇の連絡を入れた。母は恐縮していたが、私は「これは俺が決めた休みだ」とだけ伝えた。

そのの午、買い物へるため母の靴をそろえていると、玄関の話が鳴った。母がようとして受話器を探すに、私は横から支えた。相は名乗ったあと、「ご自宅の売却の件で、次の内覧を確認したく」と話し始めた。母は私の方を見ず、「今は族が来ているので、またにしてください」と急いで話を切った。

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