みかん小説
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"母の小さな食卓" 第5話

売りにされた

「を売るって、どういうことだ」

私が尋ねると、母は受話器を元の位置に戻し、しばらくをさなかった。昨までの私は、弟への送さえ止まれば母の暮らしはて直せるとっていた。けれど母は、私がらないところで、み慣れたを放す準備までめていた。

「まだ決まったわけじゃないの。古いだし、階段も危ないでしょう。売れるなら、駅にいさな部へ移るのもいいかとって」

「それなら相談してくれればよかっただろう」

「も帰ってこなかった息子に、いきなりの相談なんてできないわ」

その言葉は、鳴られるよりこたえた。母は私を責めるために言ったのではない。ただ、の空を事実としてにしただけだった。私は言い返さず、産会社から渡された類を見せてほしいと頼んだ。母は仏壇のの引きしから、い封筒を取りした。

封筒には査定と媒介契約が入っていた。契約は週の付で、母が署名している。希望売価格は百万円。築以のとはいえ、は駅からバスで分の宅にあり、私はその額が妥当なのか判断できなかった。切なのは、私がいいと決めることではなく、母が内容を理解して選んだかどうかだった。

「これ、ちゃんと読めたのか」

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「担当のが説してくれたわ。志も緒にいたから」

弟の名がた瞬、また胸の奥にいものが込みげた。志は学費の仲介だけでなく、の売却にも関わっていた。私は母に「し確認する」と断ってから弟へ話をかけた。志は話を聞くなり、「母さんが自分で決めたんだ」とい声で言った。

「階段で転びそうになったことが度ある。呂も寒い。俺はくの集宅へ移る案をしただけだ。兄さんはぶりに来て、何もらないまま全部止めるのか」

「止めるとは言ってない。だけど、母さんは目が見えにくいんだぞ。類を分読めない状態でめていい話じゃない」

「科へけって、俺だって何度も言った。母さんは『学費が終わるまでは』の点張りだったんだよ」

私は言葉を失った。弟はっていたのだ。それでも送を止めず、母の暮らしを見守っていた。腹たしさと、自分がだったろめたさが同に押し寄せた。志はため息をつき、「今夜く。兄さんにも見てほしい類がある」と言った。

私は母に、なぜそんなにく引っ越したいのか尋ねた。母は「が広すぎるから」と答えたあと、しばらく黙った。やがて「もし私がここで転んでも、すぐには誰も気づかないでしょう」とさく言った。私はそのをらなかった。

を売るという選択は、弟に勧められたからだけではなく、母がの夜に何度も考えた末のものだった。だからこそ、止めるにしてもめるにしても、私の都だけで決めてはいけなかった。

話を切ってから、私は査定の裏に挟まれた枚のを見つけた。そこには母の字で、引っ越し先の候補と、具を処分する順番がかれていた。仏壇、器棚、父の机、そして最に「直の部」。私が代を過ごした階の部には、まだ学代の本が残っているはずだった。

そのに、さく付が記されていた。来、の引き渡し希望。私はわず母を見た。母は私がを読んだことに気づかず、夕方ののでりんごの箱のひもを結び直していた。

は、私が帰ってくるのを待たずに、なくなるところだった。

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