"昭和34年、上野駅で名前を奪われた少女" 第1話
番目の名
「佐藤澄子という子は、昨もう寮に入っている。おさんは乗せられん」
野駅の駅広で、紺の作業を着た男はそう言い、名簿を閉じた。昭、青森からのい汽旅を終えたばかりの澄子は、男が何を言っているのか分からなかった。つい先ほどまで肩を並べていたの女は、荷物を抱えての送迎バスに乗り込み、窓越しにそうな顔を寄せっていた。
「私が佐藤澄子です。ほら、学からもらった紹介状にいてあります」。澄子は布鞄の底から茶封筒を取りし、汗で湿った指で差しした。男は《都織布株式会社 採用予定者 佐藤澄子》とある文字を瞥すると、肩に記された《甲》という番号だけを指で押さえた。「番号も同じだ。だから困ってるんだよ」とつぶやき、封筒を突き返した。
その朝まで、澄子は京に着けば働く所も寝る所も決まっているとっていた。青森のをる夜、母のフミはかりを節約するため々にランプを消し、暗がりので娘の着のほころびを繕っていた。父がに病でくなってから、弟の靴はいつも誰かのおがりだった。「初めの料でしい靴を買う」と澄子が言うと、母はぶより先に「自分の分も残すんだよ」と答えた。
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汽のでは、幼なじみの田子が窓に額をつけて京の話をしていた。学の田辺先が引率者に渡した類には、全員の名が並び、の寄宿舎には布団まで用されているという。内で分けた握り飯の塩気も、途駅で買ったい茶の匂いも、澄子にはこれから始まる暮らしの部にえた。だから駅に着いて最初に名を呼ばれなかったも、ただ順番を違えたのだと考えた。
列が青森をれる、田辺先は引率者のにい封筒を渡し、「野で迎えの方に必ず数を確かめてもらってください」とを押していた。澄子はその面をいし、の名をもう度胸ので数えた。子の隣には藤幸枝、その向こうには同じ学の登美が座っていた。途でりた者はもいない。駅へ着くまで確かにだったという事実だけは、誰に何と言われても変わらなかった。
「澄ちゃん、こっちへおいでよ!」。バスの窓から子がを乗りしたが、男は運転に向かって片をげた。澄子は輪のそばまでり、「せめてへ緒に連れていってください。そこで確かめてもらえれば」と頼んだ。男は瞬だけ目をそらし、「事務所の決まりだ。乗せれば俺が叱られる」と言って、いていた扉を閉めさせた。
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がきすと、子の顔は窓の向こうでさくなった。澄子は追いかけようとして歩踏みしたが、通りかかった荷にをふさがれ、ち止まった。バスのろに描かれたの社名だけが波に消えていく。周囲には同じような制や呂敷包みを持った若者が勢いたのに、自分だけが町から切りされたようだった。
泣けば誰かが助けてくれるだろうかと考えたが、澄子は紹介状をもう度いた。の所、採用、担当者の名、そして《甲》。なくともこのには、京へ来るの自分が確かに残っている。澄子は鞄から鉛を取りし、母が握り飯を包んだ聞の余に、バスの番号と迎えの男の胸札にあった《里》の文字をき留めた。
野駅の計は、まだ昼を指していた。澄子は聞を畳み、紹介状とは別の内ポケットにしまった。へけば違いが解けると、まだ信じようとしていた。だが、昨からその番号で働いているという女は、いったい誰なのだろう。
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