"昭和34年、上野駅で名前を奪われた少女" 第4話
川鈴の切れ
曜、澄子は堂の仕事をめに片づけ、裏の向かいにある材置で待った。子が約束した午を過ぎても、からてくるのは荷と作業員ばかりだった。を回った頃、ようやく現れた子はで、の頬に赤い筋が残っていた。澄子が寄ると、子は「ここでは話せない」と言い、で川沿いのへ歩いた。
「昨の夜、あの子がいなくなったの」。子はの段に腰をろし、握りしめたをいた。寮母は別のへ移ったと説したが、女の寝台には類も歯ブラシも残ったままだった。子が朝、その荷物を片づける理由を尋ねると、寮母はで頬を打ち、「余計なことを聞くと、おも同じになる」と言ったという。
澄子は胸がたくなったが、まず子の頬を確かめた。「痛むなら、ハルさんのに来て。やすものくらいあるから」。子は笑おうとして失敗し、代わりにさな切れを差しした。「あの子が布団のに挟んでいたの。捨てろと言われたけど、どうしても捨てられなかった」。には《川鈴》とかれ、そのに《甲》の文字があった。
「川鈴……これが本当の名なの?」。澄子が尋ねても、子には分からなかった。ただ、女が寮へ来た夜、荷物につけた古い荷札には《川》とかれており、翌朝にはその荷札だけがされていたらしい。
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澄子はを陽に透かしてみた。裏側には、鉛でく《 朝、千》とあり、何度も消した跡が残っていた。
はその付を見て黙った。まではあり、女がいなくなったのは昨夜だ。どこへ移されたのか、なぜの所とをいたのかは分からない。澄子は子に、もう危ないことを頼まないと約束した。その代わり、寮で自分たちの料やの扱いにおかしいことがあれば、付だけでも覚えておいてほしいと伝えた。
堂へ戻ると、ハルは切れを目見て「その子も自分の名を取り戻したかったんだろうね」と言った。澄子は「私の代わりに入ったのなら、あの子が悪いとっていました」と打ちけた。ハルは煮物の鍋をからろし、「誰が得をしたか考えな。あんたもその子も、料をもらうから困っている」と答えた。澄子は初めて、を同じ所へ追い込んだが別にいるのかもしれないと考えた。
澄子は、鈴が残したをさな封筒へ入れ、側に子から受け取った付をいた。ハルは「をくれた子の名は、今はに言わなくていい」と助言した。子がで働き続けるには、証拠を見つけたことまでられない方がいい。澄子は誰かを助けたい気持ちだけでけば、そのの暮らしを壊すこともあるとった。
まず自分が何を持っているか、誰がどこまでっているかを分けて考える必があった。
翌、澄子は千へくに、の守へ川鈴という名を尋ねた。守は驚いた顔で辺りを見回し、「その名をどこで聞いた」とく言った。澄子が答えずにいると、老は「俺がをせることじゃないが、昨の晩、寮の裏から乗せていったがあった」と教えた。の横には、以にもへ入りしていた紹介の名がいてあったという。
「古賀、ですか」。澄子が聞くと、守は黙ってうなずいた。学の紹介状にない名が、またつ同じ所へ戻ってきた。だがその夜、澄子のところへ来たのは川鈴ではなく、野駅で自分だけをバスに乗せなかった里だった。
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