"昭和38年、つなぐなと言われた救急電話" 第3話
診療誌に残った刻
《夜、線にな異常を確認。交換宮坂澄子は接続操作を試みたが、器調により完せず》
報告の文章を読んだ澄子は、ペンを置いた。
「署名できません」
原の眉がいた。
「なぜだ」
「器調じゃありません」
「おが判断することじゃない」
「私が接続しようとしたんです」
「だからいてある」
「主任が止めたことがいてありません」
部の空気が固まった。
原はドアを閉めた。
「宮坂。俺はおを守ろうとしている」
澄子はわず笑いそうになった。
「私を?」
「故障だったことにすれば、それで終わる」
「故障してなかったら?」
「何がしたい」
その質問に澄子は答えられなかった。
真相をりたい。
だが真相をって何をするのか。
警察へくのか。
会社へ訴えるのか。
自分の職を失ってまで?
原はペンを押した。
「署名して帰れ」
澄子はを置いたまま部をた。
。
休暇を取った。
母には「友達に会ってくる」と言い、朝のバスで奥沢診療所へ向かった。
診療所は沿いのさな造建物だった。
受付には代の護婦が。
「藤沢先にお会いしたいんですが」
「お名は?」
「話交換所の宮坂です」
護婦の顔が瞬変わった。
奥の診察へ通される。
藤沢は机へ向かっていた。
澄子を見ると、鏡の奥の目を細めた。
広告
「交換所の方?」
「の夜、先の話を受けました」
藤沢のが止まった。
「何だったか覚えています」
「……何だね」
「最初が午分です」
藤沢は子にもたれた。
い沈黙。
「君だったのか」
「すみませんでした」
澄子はをげた。
「私、つなげませんでした」
藤沢はすぐには答えなかった。
やがて机の引きしからい診療誌をした。
「見せていいものではないが」
ページをく。
1112。
《2320分 林勝雄 搬入》
澄子の目が止まった。
その。
《2335分 県病院への搬送必と判断》
《2342分 話連絡始》
《2348分 再度連絡》
《2354分 再度連絡》
そして。
《108分 確認》
澄子は面から目をげられなかった。
「午……」
「そうだ」
「聞は午に発見されたと」
「嘘だ」
藤沢はく言った。
「勝雄君は午分にはここへ運び込まれていた」
「誰が?」
藤沢は別の欄を指した。
《搬送者 原敏夫ほか名》
澄子の胸が締めつけられた。
「原……」
「っているのか」
「交換主任の息子です」
藤沢はゆっくり鏡をした。
澄子のので、あの夜の原の言葉がつながった。
――の方で事故があったらしい。
――今つないだら話がきくなる。
――これは命令だ。
「先」
澄子は声を落とした。
「勝雄君は、病院へけていたら……」
藤沢はすぐには答えなかった。
「絶対に助かったとは言えん」
「でも」
「ただ、搬送するは分にあった」
広告
窓のでが鳴った。
「なくとも、私はそう判断した。だから何度も話した」
「主任が止めました」
藤沢の目ががる。
澄子は全部話した。
接続コードを押さえられたこと。
原に命令されたこと。
配盤を確認させられたこと。
勤務記録から話が消えていたこと。
藤沢は黙って聞いた。
やがて診療誌を閉じようとした。
その、澄子が尋ねた。
「先。聞では落事故になっています」
藤沢のが止まる。
「違うんですか」
「私は現を見ていない」
「でも何かってるんですよね」
「宮坂さん」
「お願いします」
澄子はをげた。
「らないままでは、私があの子を見捨てたのかどうかも分からないんです」
藤沢は苦しそうに息を吐いた。
そしてい声で言った。
「勝雄君のには、だけじゃなかった」
「何が?」
「細かいのと、焦げたような匂いがついていた」
澄子は顔をげた。
「それからに、導線を扱ったにできるような汚れがあった」
「発破……ですか」
藤沢は答えなかった。
だが否定もしなかった。
奥沢の事では、岩盤を崩すための発破作業がわれていた。
ただし夜の作業については、町でも以から危険だと噂されている。
藤沢は窓のへ目を向けた。
「もうつある」
「何ですか」
「あの夜、病院につながらなかった、警察にもつないでくれと頼んだ」
澄子はきを止めた。
「警察?」
「午零だった」
「私は受けてません」
「頼んだ」
「でも……」
澄子は突然、あの夜のことをいした。
午1157分。
原から配盤を見にけと言われた。
、分。
交換台をれていた。
「先」
「何だね」
「その話……何頃でしたか」
藤沢は誌をめくった。
指がで止まる。
《2358分 警察連絡を依頼》
澄子の背筋にたいものがった。
その刻。
自分は交換にいなかった。
交換台にいたのは――原主任だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 0 -
完結第20話
昭和34年、上野駅で名前を奪われた少女
昭和34年、青森から集団就職列車で上京した15歳の澄子。しかし迎えの男は、「佐藤澄子は昨日から働いている」と告げ、十二人のうち彼女だけを駅に置き去りにする。 工場では、石川鈴という少女が澄子の名前と勤務番号を与えられていた。さらに偽造された退職届、説明のない給与控除、未発送の手紙など、少女たちを名前と番号で管理する不正が次々と明らかになる。時代|歴史|昭和2.8万字5 39 -
完結第16話
昭和53年、棟梁が俺を毎晩残した理由
十五歳で大工に弟子入りした直人は、一年間、掃除と雑用ばかりの日々を送っていた。ところが昭和五十三年の春、厳格な棟梁・源造から突然、「今日から毎晩残れ」と命じられる。 鉋、墨付け、仕口、図面。三年かけて覚えるはずの技を急いで教え込まれる一方、棟梁の体は日に日に弱っていく。やがて直人は、夜の稽古が自分を酷使するためではなく、残された時間で技術を託すためだったと知る。 師のいない現場で家を完成させた直人に遺されたのは、「半人前」と書かれた道具箱。しかし、その紙の下には、棟梁が生涯口にしなかった本当の言葉が隠されていた。時代|歴史|昭和2.6万字5 77 -
完結第16話
昭和24年、帰還した夫の家に別の夫がいた
戦地から四年ぶりに帰還した清太を待っていたのは、妻・文子と見知らぬ夫、そして二人の幼い娘だった。「ここはもう私たちの家です」と告げられ、清太は自分が死者として扱われていたことを知る。 出征直前、文子の胎内にいた息子・浩はすでに八歳。しかし浩は母のもとではなく、山村の伯母夫婦に育てられていた。妻も家も息子も取り戻したい清太だったが、彼のいない四年間にも、それぞれが生き延びるために築いた暮らしがあった。 実父の清太、母と暮らす政男、自分を育てた伯父。三人の「父」を持つ浩を前に、清太は家族が奪い返すものではないと気づいていく。時代|歴史|昭和1.4万字5 125