みかん小説
本棚

"昭和38年、つなぐなと言われた救急電話" 第9話

来なかったトラック

奥沢診療所には救急が常駐していなかった。

い患者を町の病院へ送る必があるには、消防関係の両を頼むこともあれば、緊急には域のを借りることもあった。部では、制度だけではにわないことがある。

あの夜。

県病院へ話がつながらない。

藤沢は待つのをやめた。

護婦の松井を所の丸運送へらせた。

「トラックでも何でもいい。荷台へ布団を敷く。病院まで運ぶ」

丸運送の主は承した。

午010分頃。

台の型トラックが診療所へ向けてた。

「でも来なかった」

藤沢は言った。

「どうして?」

「当は分からなかった」

「今は?」

藤沢は枚のメモをした。

「昨、丸さんが来た」

澄子はそののうちに運送を訪ねた。

丸清作は歳。

事故の話をすと、すぐにの戸を閉めた。

「先から聞きました」

澄子が言った。

「診療所へく途で止められたんですね」

丸は黙った。

「誰に?」

「もう済んだことだ」

「済んでません」

「勝雄は帰ってこない」

「だからです」

丸はい、煙へをつけようとしていた。

本目のマッチでようやくがつく。

「のでが台まってた」

「どんなですか」

「会社のジープ」

「信濃建?」

丸は頷いた。

「誰がいた?」

「原敏夫」

澄子の指がく握られる。

「何て言われました?」

「搬送は会社でやるから戻ってくれって」

広告

「信じたんですか」

「現責任者だ。しかも藤沢先から頼まれてたなんて、向こうもってた」

「どうしてっていたんでしょう」

丸が顔をげた。

その疑問を、その初めて考えたようだった。

護婦がって丸運送へった。

そこに話はしていない。

なら、信濃建側はなぜ「別の」がたとっていたのか。

「松井さんが誰かに話した?」

「いや」

「誰か見ていた?」

丸は首を振った。

澄子は別の能性を考えた。

事会社は、診療所を見張っていた。

あるいは、診療所から入りするを確認していた。

「その、会社のは診療所へ?」

「らん」

来ていない。

藤沢が記録している。

勝雄は午18分にくなった。

丸のトラックなら、県病院まで々。

が悪くても、なくとも搬送は始められた。

「なぜ今まで言わなかったんですか」

丸は煙を皿へ押しつけた。

「翌朝、会社の所が来た」

「何と?」

「昨夜のことは、搬送止だったことにしてくれと」

「断らなかった?」

「俺のは会社から仕事をもらってた」

また同じだった。

活。

取引。

仕事。

族。

嘘は恐怖だけで広がっているのではない。

との暮らしの結び目を使って、広がっている。

澄子は帰り、ち止まった。

つの疑問があった。

護婦がった。

丸がをした。

敏夫がそれを止めた。

ではその。

敏夫はなぜ病院への搬送を妨げなければならなかったのか。

広告

すでに事故刻を隠すだけなら、勝雄を病院へ運んでもよかったはずだ。

むしろ命が助かれば、事にはならない能性すらある。

それでも止めた。

理由。

県病院へ運ばれれば、負傷状態から事故原因が詳しく調べられる。

警察も入る。

きな病院には記録が残る。

そして何より。

勝雄自が識を取り戻したら、事故について話す。

澄子はその考えを藤沢へ伝えた。

医師は黙った。

「先。勝雄君、診療所に来たは話せたんですよね」

「最初の分ほどは」

「何を言いました?」

藤沢は目を閉じた。

「あの子は何度も同じことを言った」

「何て?」

「『俺が戻ったのを誰も見てなかった』と」

「戻った?」

「発破点にだ」

澄子は息を呑んだ。

「それから」

藤沢が続ける。

「『止めるがいなかった』と」

それは単なる事故ではない。

全確認がわれないまま、発破が実施されたことを示す言葉だった。

勝雄が病院へ到着し。

警察へ同じことを話せば。

事会社の説は、その夜のうちに崩れていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: