"成人式に消えた母と十三着目の振袖" 第4話
消えるに母が渡したもの
千鶴は、姉と最に話したことを否定しなかった。ただし奈津子が横領を認め、娘を頼むと言ったのだと説した。俊夫が先に保険類を準備したのは、夜に奈津子の逃計画をったからであり、経営者として損害を抑える必があったという。
「それなら、お母さんが渡したものを見せて」
紗季が尋ねると、千鶴は何も受け取っていないと答えた。しかし元経理の桑原は、奈津子が戻ったときい封筒を持っていたのを見ている。監映像の刻も、奈津子がぶらで再び裏へたことを示していた。桐箱とは別の何かを、内へ残した能性がかった。
警察は乃の旧パソコンを押収し、削除されたメールの復元を始めた。10に千鶴が印刷した《成式の朝、箱を持ってる》《紗季には何もらせない》というメールには、の文章があった。奈津子が真壁へ送った本来の文面は、《証拠の箱を持ってる。紗季には式が終わるまで何もらせない》だった。
さらに《でくへく》という文も、別ののメールから切り取られていた。全文は《葵さんと子どものを、くの支援施設へ移す》であり、奈津子と真壁の駆け落ちを示す内容ではない。千鶴たちは複数のメールを並べ替え、姉とカメラマンが逃げた物語を作っていた。
広告
瀬葵には当、8かの息子がいた。児童養護施設を退所、み込みで働けるという条件で乃に雇われ、の2階で子どもと暮らしていた。与から賃と振袖ローンを引かれ、元に残るのは2万円ほどだったが、本はローン契約をした覚えがなかった。
真壁は撮り写真の自然さに気づき、奈津子へネガを渡していた。奈津子は葵を通じての被害者へ連絡し、成式のに証拠を県警へ持ち込む計画をてた。桐箱のはではなく、原本の契約、顧客印の複製、撮用のの振袖だった。
駐周辺の古い舗映像を調べると、真壁のワゴンは午938分に横浜央警察署のへしていた。奈津子と真壁、葵の3が箱を抱えて入へ入る姿も残っている。母はから逃げたのではなく、通報するため警察へ向かっていた。
映像を保管していたのは、向かいの文具だった。主は防犯器をしくした際、古いハードディスクを捨てず、息子が撮した祭りの映像と緒に物置へ残していた。刻は警察署の計表示と照され、編集のない連続映像だと鑑定された。偶然残った1本の記録が、10の推測を事実へ戻した。
真壁のが署をれた7分、俊夫のも同じ方向へている。さらに千鶴の携帯話から、俊夫へ11回、保険代理へ3回発信されていた。
広告
姉を配して捜したのではなく、相談が事件として受理されるに、横領の説を先へ届けようとしていたきだった。
しかし当の相談記録には3の名がない。当窓にいた元警察官は、と客の契約問題だと判断し、契約の原本を受け取らず帰したことを認めた。葵が自分ので署名していないと訴えても、雇用主との銭トラブルとして消費活センターへくよう案内したという。
警察署をたあと、3は真壁の弁護士を訪ねる予定だった。ところがワゴンは横須賀の駐で見つかり、桐箱は空になっていた。元警察官の記憶では、3が帰る直、俊夫が署内へ現れていた。《内がのを持ちした》と別の窓へ相談し、奈津子たちがるのを見てすぐ話をかけていた。
ここで1つの疑問は解けた。奈津子は960万円を盗んで恋と逃げたのではない。架空ローンの証拠を運び、葵親子を全な所へ移そうとしていた。なくとも警察署をた午1016分までは、自分のでき、きていた。
けれど、よりきな疑問が残った。俊夫に計画をらせたのは誰なのか。奈津子は娘にさえ秘密にしていたのに、夫婦は逃の1から保険類を準備し、警察署へ先回りしていた。
紗季は母が残した文を読み直した。
《のに言われても、今は署名をしないで》。あの、成式を終えた自分へ類をしたのは俊夫だった。母は、娘の名義まで架空契約に使われるとっていたのかもしれない。
弁護士が13番の振袖からた鍵を使い、警察ち会いで桜町駅の保管箱をけた。には封をされたいファイルと、紗季の20歳の誕を指定したがあった。しかしは未封ではなく、度蒸気でけられ、別の糊で閉じ直されていた。
封筒の端には、千鶴が普段使っていたのが付着していた。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
夫が毎日3回トイレを磨く理由
結婚五年。紗季は、温厚で家事にも協力的な夫・玲央と、四歳の娘・莉乃と平穏に暮らしていた。ただ一つ奇妙だったのは、夫が毎日三回もトイレを掃除し、誰にも触らせなかったこと。 ある日、法医学者の親友・美代子が、トイレの排水設備から人間の歯と古い血痕の痕跡を発見する。調査を進めると、この家では六年前、玲央と同棲していた婚約者が突然姿を消していた。夫婦|真実|真相1.5万字5 246 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 3 -
完結第14話
赤ちゃんの声が聞こえる姪が、夫の嘘を見抜いた日
生後一か月の息子を見た六歳の姪・美久は、「赤ちゃん、お父さんにひどいことをしないでって言ってる」と告げる。その言葉に、夫・徹だけが激しく動揺した。 育児をせず、暴言を重ねる夫に違和感を抱き始めた亜鳥。やがて美久が書斎で見つけた封筒から、亜鳥を被保険者、徹を受取人とする高額な生命保険の書類が発見される。 さらに調べると、徹には隠していた借金と別の女性がいた。夫婦|真実|真相|親子関係1.4万字5 1135 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 674 -
完結第15話
午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる
午前2時17分。夜勤看護師の由衣は、面会時間を過ぎた病棟で黒いコートの女性を目撃する。 女性が立ち止まったのは、家族との連絡を拒み続ける71歳の患者・久世修一の病室前。だが受付記録にも防犯カメラにも姿はなく、乗り込んだエレベーターからも忽然と消えていた。 修一は女性の特徴を聞くと顔色を変え、10年間疎遠だった娘へ連絡してほしいと頼む。やがて判明したのは、黒いコートが10年前に亡くなった妻・美佐子のものと同じだったこと。そして彼女が息を引き取った時刻も、午前2時17分だった。 妻の最期に間に合わなかった父と、その父を許せなかった娘。再び同じ時刻にエレベーターが開く夜、10年間止まっていた家族の時間が静かに動き始める。ミステリー|夫婦|真実|真相1.4万字5 120 -
完結第17話
離婚したので、義実家への月50万円をやめました
「この家は俺と愛人と子供が使う。離婚後も、両親への月50万円は払い続けろ」 そう言って離婚届を突きつけた夫に、美緒は何も争わず署名する。夫は豪邸も高級車も手に入れたと思い込み、数日後、愛人と赤ん坊を連れて戻ってくる。しかし玄関の鍵は開かず、車も消えていた。家も車も、美緒が経営する会社の資産だったのだ。 さらに仕送りを止められた義母は、美緒の口座から500万円を引き出そうとし、愛人の住居契約からは偽造された署名が見つかる。嘘で築かれた「新しい家庭」が崩れ始める中、夫は美緒が離婚を急いだ本当の理由と、目前に迫っていた数十億円規模の契約を知ることになる。人生逆転|嫁姑|夫婦|真実|第二の人生|不倫1.7万字5 723 -
完結第10話
昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父
昭和51年、炭鉱が閉山した3日後、保安係だった父・修一が姿を消した。玄関には泥のついた長靴と作業帽が残され、母は「探さなくていい」と口を閉ざす。だが娘が父の作業着から見つけた紙片には、閉鎖された坑道の名と、謎の時刻が記されていた。 調べるほどに浮かび上がる、改ざんされた保安記録、帳簿から消された作業員、そして会社が隠そうとする閉山直前の事故。やがて坑道に残された録音から、父が誰かを救おうとしていた事実が明らかになる。しかし数十年後に届いた父の名札には、さらに不可解な言葉が刻まれていた。 「北の出口から出た。家へは戻れない」 父はなぜ、生きて坑内を出ながら家族のもとへ帰らなかったのか――。時代|歴史|昭和|ミステリー|真相1.5万字5 236 -
完結第12話
万引きを疑われた私に、警備員が「六万円で見逃す」と言ったので父に電話した
ロンドンから帰国した紗季は、父が経営するショッピングモールを客として訪れた。ところが突然、身に覚えのない万引きを疑われ、警備室へ連行される。鞄から出てきたのは、見たこともないネックレス。さらに警備員は「六万円払えば見逃してやる」と、用意済みの自白書を突きつけてきた。 だが彼らは知らなかった。紗季が次期経営幹部として帰国した、社長の娘であることを。そして父への一本の電話をきっかけに、隠しカメラの映像、消された記録、何十人もの被害者が浮かび上がる。これは警備員の小遣い稼ぎではない。モールそのものを奪うため、会社の中枢で仕組まれた巨大な罠だった――。真実|金銭問題|修羅場2.1万字5 607