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"二十六年目の告白" 第12話

(完結) ほどけた結び目、母の

引越しの、空はどこまでもく青く澄み渡っていた。

築の古い造のに、型の引越しトラックがまっている。 畳の擦り切れた居、認症の義母が夜通し徘徊し汚物を撒き散らした廊、夫が夜に帰宅しては嫌に鳴り散らした玄関——そのすべてから具が運びされ、空っぽになった部には、乾いたのだけが射し込んでいた。

私は最に、誰もいなくなったがらんどうのリビングの央にち、ゆっくりと周囲を見渡した。

「母さん、トラックの積み込み、全部終わったよ」 作業用の軍をしながら、誠が玄関から顔を覗かせた。 「産さんも鍵の引き渡しに来てくれた。……もう、本当にお別れだね」

「ええ……そうね」

私はく、く息を吐きした。 、このたいで耐え忍んできた々の記憶が、馬灯のように胸を駆け巡る。

まれたばかりのが子を守るため、夫の狂気をりながら笑顔を貼り付け続けた々。 義母から「役たずの嫁」と罵倒されながら、たいで何枚もの汚れたシーツを洗いしたの朝。 夫のスーツから漂う甘ったるいの匂いに吐き気を催しながら、仏壇の引きしの奥に通帳を隠し、じっと爪を研ぎ続けた孤独な夜。

どれつとして、楽ななどなかった。

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何度もが折れかけ、夜叉のような衝にを任せてすべてを投げしたくなった夜があった。

だが、私は耐え抜いたのだ。 悪に悪で応えるのではなく、ただ目ののかけがえのない命を真っ直ぐに育てるという、たったつの祈りだけを胸に抱いて。

カチャリ。 玄関のドアを閉め、産の担当者に鍵を渡した瞬、、私の背骨にい込んでいたい鉄の鎖が、音をてて砕け散ったような気がした。

「こう、母さん。しいへ」 誠が私の肩を抱き、優しく歩きす。 「うん。きましょう」

居は、誠の勤務先のオフィスからで分ほどの所にある、閑静な宅の層マンションだった。 向きのリビングのきな窓からは、柔らかく温かい陽が部いっぱいに注ぎ込んでいる。はるいオーク材のフローリングで、真しい壁からは清潔なのりが漂っていた。

荷解きを終えた夕暮れ、ベランダにると、茜に染まる空のに富士のシルエットがくっきりと浮かびがっていた。

「母さん、お茶が入ったよ」 誠が差ししてくれた陶器のマグカップから、ばしいほうじ茶の湯気がちる。

「ありがとう、誠」 湯呑みをので転がしながら、私は隣につ息子の横顔を見げた。 父親の卑劣な嘘に惑わされることなく、の狂気にも屈せず、こうして私の隣で頼もしく微笑んでくれている、自の息子。

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「母さん、達也さんからさっきメッセージが来たよ」 誠がスマートフォンを見せてくれた。 そこには、しいアパートの部で、作業着姿の達也が照れくさそうにピースサインをしている写真と、『今からしい活が始まりました。ゆみさん、誠さん、本当にありがとう』といういメッセージが添えられていた。

「よかった……本当によかったわ」 私の目から、自然と筋の涙が頬を伝った。 もう、しみの涙ではない。過のすべての苦難が、この瞬のためにあったのだとから受け入れられた、完全な堵の涙だった。

夫・浩司と・美が仕組んだ、おぞましい赤子のすり替え劇。 は自らの欲望と復讐を満たすために無垢な命を弄び、その結果として、自らが仕掛けた罠の底で自滅していった。悪によって者を支配しようとした者たちはすべてを失い、誠実にを注ぎ続けた者たちの元にだけ、本当の族の絆とが残されたのだ。

「母さん」 誠が私のをそっと握りしめた。 「これからは、俺が母さんを守るよ。母さんの好きな本を読んで、好きな所へ旅にって、美しいものをたくさんべて……これからは、母さん自のを楽しんでね」

「ありがとう、誠。……お母さん、今、とっても幸せよ」

夕が静かにを包み込み、窓の向こうには温かなの灯りがのように瞬き始めていた。

たいのる病も、罵声のび交う古い敷も、もうどこにもない。 あるのはただ、する息子と紡ぎす、穏やかでに満ちた、しい々の始まりだけだった。

私は澄み切った夜空を見げ、ので静かに微笑んだ。 私の本当のは、今、この温かな部から、確かに始まったのだ。

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