"結婚翌朝、五分遅れの朝食が暴いた秘密" 第4話
厨からの乱入者
「失礼いたしますッ!!」
広に転がり込んできたのは、純の調理にを包んだ柄な男性だった。 料亭『黒崎』本の厨をにわたり統括する総料理・佐々(ささき・歳)。 ミシュランのを維持し続け、気難しい政財界の鎮たちを唸らせてきた、グループ内でも会の正郎に次ぐ絶な権威を持つ男だ。
額に粒の汗を浮かべ、肩で息をする佐々の姿に、孝志が眉をひそめて声を浴びせた。
「佐々! 親族の朝の席に、厨のが勝に踏み込んでくるとは何事だ! 礼儀を弁えんか!」
しかし、佐々は専務である孝志の叱責など、切に入っていない様子だった。 血った目で広を見渡し、畳のに散乱した器の残骸と、ぶちまけられた噌汁のを界に捉えた瞬、佐々の顔からサーッと血の気が引いていった。
「あ……あの調料は……!? 奥様、まさか……あの古いガラス瓶をお使いになったのですか!?」
佐々が鳴のような裏返った声で問い詰めた。 佳代はそうに扇子で胸元を扇ぎながら、馬鹿にしたようにを鳴らした。
「何よ、佐々。声をしちゃって品がないわね。ええ、そうよ。台所の棚の奥に眠っていた古い瓶を、このしいお嫁さんに渡してあげたのよ。『黒崎の伝統の付けを覚えなさい』ってね。
広告
それが何か問題でもあるの?」
「問題どころの話ではありませんッ!!」 温でられる佐々が、広全体を揺るがすような鳴のごとき号をげた。 佳代がビクッと肩をねがらせ、親族たちが直する。
佐々は膝から崩れ落ちるように畳にをつくと、にこぼれた噌汁の匂いを嗅ぎ、次に義父・正郎の元に散らばった噌のシミに顔をづけた。
「……汁が、違う……」 佐々が震える声で呟いた。 「こちらは……昆布と煮干しのし……塩分濃度も極限まで抑えてある……。会の御膳だけ、完全に別鍋で仕て直してあるのか……!?」
「おい、佐々! 何をブツブツ言っているんだ!」 孝志が苛ちをわにして割り込む。 「そんなゴミのような残飯の分析などどうでもいい! この女が親父の事を叩き壊したんだ、すぐに敷から叩きす筈を――」
「黙りなさいッ、専務!!」
佐々がちがり、孝志の胸ぐらに掴みかからんばかりの剣幕で鳴りつけた。 「このお方が……この若奥様が転を利かせてくださらなければ、会は今頃、息を止めておられたかもしれんのですよッ!!」
「……は?」 孝志の考が、完全に止した。
佐々は震える指先で、の破片を指差した。 「奥様が蔵から持ちしたあの瓶……あれは、先代の料理が発を試み、あまりの成分濃度の危険性から【破棄・封印指定】にされた、猛毒にい試作エキスです! 会のお体に、絶対に入れてはならない劇薬ですよ!!」
広の空気が、瞬にして音を失った。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
空港に置き去りにされた妻は、もう帰らない
欧州出張から帰国したゆりを、夫と義母は成田空港へ置き去りにした。「四時間歩いて来い」と笑いながら、彼女を貧しいラーメン屋の娘だと見下して。 彼女は、夫の不倫や会社資金四千八百万円の横領を示す証拠を、すでに揃えていた。 空港から一本の電話をかけた三時間後、取引停止が相次ぎ、夫の会社は大混乱に陥る。嫁姑|夫婦|修羅場1.8万字5 0 -
完結第25話
義母が倒れた夜、隣人が私を止めた理由
午前一時、夫から「母が脳卒中で倒れた」と連絡を受け、病院へ急ごうとした美緒。だが車に乗る直前、隣人の氷室に止められる。前輪の下にはブレーキ液が漏れた跡があり、義母本人へ電話すると「倒れていない」と告げられた。 防犯映像に映っていたのは、出張中のはずの夫・達也。裡切られた|夫婦|真相|介護3.0万字5 22 -
完結第12話
母に贈った家を狙う親戚夫婦
母への恩返しに建てた家へ帰ると、親戚夫婦が勝手に住み着き、食卓を囲んでいた。しかも二人は近所に「自分たちの新居だ」と触れ回り、家まで奪おうとしていた。 裕子は怒鳴らず、警備会社への一本の電話をきっかけに、入退室記録、録音、登記、映像を着実に集めていく。 これは家を取り戻すだけでなく、断れずに生きてきた母が初めて「ここは私の家です」と声を上げる物語。静かな反撃と、母娘が本当の安心を取り戻す再生の一篇。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場1.8万字5 2 -
完結第12話
二十六年目の告白
余命わずかな夫・浩司は、妻ゆみに衝撃の告白をする。二十六年前、ゆみが産んだ息子と愛人の子を、病院で密かにすり替えたというのだ。 だが、ゆみはすべてを知っていた。夫の行動を目撃し、名札を元へ戻していたため、浩司が愛人の子だと信じて溺愛してきた誠は、紛れもなくゆみの実子だった。夫婦|真相|親子関係|修羅場|不倫1.7万字5 10 -
完結第16話
赤いガーベラと私の家
母の形見の絵を嫁に勝手に売られ、家事を当然のように押しつけられてきた50歳の愛子。限界を迎えた彼女は、母の保険金で購入した小さな家へ一人で移り住む。 ところが長男夫婦は、新居まで「実家」と決めつけ、家事をしてもらうつもりで強引に引っ越そうとする。愛子は荷物の受け取りを拒み、専門家の助言を得て、同居を認めない意思を書面ではっきり示す。 やがて母の絵は親切な購入者の手によって戻り、愛子は長男夫婦に「この家にあなたたちの部屋はない」と告げる。彼女が去った古い家では、夫も息子夫婦も、これまで愛子が背負っていた家事の重さを初めて知ることになる。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|金銭問題1.6万字5 16