みかん小説
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"七年後、屋上で見つかった妻の秘密" 第1話

19934。鹿児島郊の丘陵に広がる興宅には、桜島のを含んだく湿ったのがり続いていた。の錦湾から吹きげてくるぬるい潮が、アスファルトのや宅の軒先を絶えなく湿らせ、朝夕はまだのスプリングコートを放せないえ込みが残っていた。

その宅の画に佇む分譲マンション「サングリーン」は、1986のバブル黎期に竣した鉄筋コンクリート造り階建ての建物だった。棟が庭を取り囲むように然と配置され、央の共スペースにはツツジやサツキが植えられた入れのき届いた円形壇が配されている。興のベッドタウンとして子育て世代や若い夫婦がく入居していたが、敷内にはいつも奇妙なほど静謐な空気が漂っていた。

その静けさを支えていたのが、正ゲートの脇にある畳ほどの造管理事務所だった。

毎朝半、まだ周囲が暗い帯から、事務所のすりガラス越しに蛍灯のいが漏れす。ちょうどになると、属の擦れうさな音とともに引き戸がき、作業着姿の男が箒と取りをにてくる。

管理のシゲル——戸籍の氏名を佐藤シゲルという。当歳。

髪の混じったい髪に、焼けした頑丈な顔ち。

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いつも糊の利いた清潔な作業着をに纏い、敷内の周からゴミ集積、各棟のエントランスに至るまで、落ち葉枚残さず掃き清めていた。数は極端になく、民と顔をわせてもよく世話をすることは滅になかったが、く腰を折って会釈するその姿は、実直そのものに見えた。

「シゲルさん、おはようございます。今朝もいですね」

通勤のために急ぎでエントランスをてくる民が声をかけると、シゲルは作業のを止め、くをげて返した。

「おはようございます。で階段の踊りが滑りやすくなっておりますので、元にお気をつけて」

決して笑顔を見せることはないが、その言葉には嘘のない真面目さが滲みていた。

シゲルの仕事ぶりは完璧だった。共用部分の球がつでも切れれば、民が報告するより先にそのの夕方には真しい球に交換されていた。どこかの部でのパッキンが緩んで漏れの音がすると苦が入れば、夜であっても具箱を抱えて駆けつけ、際よく修理を終えてみせた。仕事から気配線、植栽の剪定に至るまで、彼でこなせない管理業務はしないかのようだった。

その信頼を決定づけたのが、事務所の壁に並べて掲げられた枚の表彰状だった。

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枚は、所轄の消防署から贈られた謝状。1989の、敷内の気から漏による災が発した際、シゲルは黒煙がち込める階段へ躊躇なくび込み、階に取り残されていた齢の民を自らの背に背負って無傷で救した。その勇敢なは元の社会面でも美談として取りげられ、もう枚の警察署からの表彰状とともに、の額縁に収められていた。

民が管理費の支払いや設備の具の相談で事務所の引き戸をけるたび、正面の壁に掲げられたその額縁が真っ先に目にび込んでくる。それは、この男が誠実であり、命を懸けて自分たちの暮らしを守ってくれているという絶対な証だった。

がりになった午分。その事務所のを、青いナイロン製のヨガバッグを肩にかけた若い女性が通り抜けた。

ミキ、歳。

柄だが凛とした姿勢と、涼しげな目元が印象な女性だった。首まである淡いベージュのスカートを揺らし、濡れた壇の縁に沿って軽やかに歩いていく。

「いってらっしゃいませ、奥さん」

壇の雑を抜いていたシゲルが、腰をげて声をかけた。ミキはち止まり、が咲くようなるい笑顔を浮かべて会釈を返した。

「おはようございます、シゲルさん。

いつも綺麗にしてくださってありがとうございます。ってきますね」

そのい挨拶を最に、ミキは正のアーチをくぐり、がりのへと姿を消していった。

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