"七年後、屋上で見つかった妻の秘密" 第12話
油と煤で黒ずんだ、の綿製作業着。
サングリーンの古参民たちが、「シゲルさんがの配管修理や所作業のときにいつも着ていた」と証言した、私物の特注作業着だった。
科捜研へ送られた作業着の繊維と、貯槽の底から採取された繊維片の比較鑑定が始された。
子顕微鏡による繊維断面の形状分析、速液体クロマトグラフィーによる染料の化学成分分析、そして放射施設を用いた微量元素の組成分析。
週に及ぶ眠休の鑑定作業の末、提された鑑定には、極めて確な結論が記されていた。
『貯槽底部より採取された繊維片と、押収された作業着の繊維は、ポリエステルと綿の混紡比率、繊維の撚りわされ方、使用されている青染料の化学組成、経劣化による微細な亀裂パターンに至るまで完全に致。同の製造ロット、かつ同の着用個体から剥したものであると断定する』
シゲルがアセチレンバーナーでタンクのハッチを切断し、遺体を投げ込み、再び蓋を溶接して密閉した際、作業着の繊維が焼き切られた鉄板の鋭利な返しの部分に引っかかり、引き千切れて暗の底へと落していたのだ。
20008、鹿児島方検察庁は、佐藤シゲルを殺罪および体遺棄罪で鹿児島方裁判所に起訴した。
広告
鉄壁とわれた男の完全犯罪の壁に、科学のが決定な穴をけた瞬だった。
2001、鹿児島方裁判所第号法廷。
初公判の法廷は、傍聴券を求めて朝から並んだサングリーンの民や報陣で満席となっていた。
被告席に座るシゲルは、仕てのっぽいのスーツをに纏い、背筋を伸ばして正面の裁判を見据えていた。髪はさらに増えていたが、その表には反省や怯えのは微もなく、氷のようにたい沈黙を保ち続けていた。
「被告は無罪です。検察側の主張は、状況証拠を引に繋ぎわせた推測の産物に過ぎません」
国選弁護は冒陳述で真っ向から無罪を主張した。直接の目撃者はせず、自もなく、殺害の具体な凶器も特定されていないという論理だった。
しかし、検察側が法廷に提した証拠の数々は、弁護側の反論を々に砕していった。
証尋問にった吉永郎は、子に乗って廷し、涙を流しながら州代からの支配関係と、ミキの密告の経緯を赤裸々に証言した。
続いて証言台にった科捜研の鑑定官は、巨なスクリーンに子顕微鏡の拡写真を映しし、貯槽の繊維片とロッカーの作業着が分子レベルで致することを理然と説した。
そして、公判の終盤、検察官が通のを読みげた。
広告
夫の健が、ミキの遺品理の際に見つけし、追加証拠として提したあのメモだった。
『、管理に直接言いにく。 証拠は全部集めた。 もし私から連絡がなかったら、役所の建築指導課の閲覧番号を彩に聞いてみて。 健さん、ごめんなさい。でも、見過ごせないの』
静まり返った法廷に、検察官の朗読する声が響き渡る。
傍聴席の最列に座っていたミキの母・よし子が、両で顔を覆い、声を殺して泣き崩れた。健は拳を固く握りしめ、血が滲むほど唇を噛み締めていた。
200111、判決公判。
裁判は主文を回しにし、文の判決理由を朗読した。
「被告は、自らの過の犯罪や正が見することを恐れ、正を追及しようとした被害者の正義を踏みにじり、その命を無慈に奪った。さらに、遺体を自らが管理する建物の貯槽内に隠蔽し、辺に遺を偽装して投自殺に見せかけるなど、その犯態様は極めて悪質かつ酷である。被害者の無、遺族の受けた精神苦痛は察するに余りある」
法廷内の空気が張り詰める、裁判が厳かに告げた。
「主文。被告を、懲役に処する」
法廷内に、いうめき声と嗚咽が広がった。
シゲルはじろぎつせず、をげることもなく、刑務官に促されて退廷の扉へと消えていった。
被告側は直ちに福岡等裁判所へ控訴したが、翌棄却。最裁判所への告も退けられ、懲役の実刑判決が確定した。
広告
おすすめ作品
-
完結第25話
義母が倒れた夜、隣人が私を止めた理由
午前一時、夫から「母が脳卒中で倒れた」と連絡を受け、病院へ急ごうとした美緒。だが車に乗る直前、隣人の氷室に止められる。前輪の下にはブレーキ液が漏れた跡があり、義母本人へ電話すると「倒れていない」と告げられた。 防犯映像に映っていたのは、出張中のはずの夫・達也。裡切られた|夫婦|真相|介護3.0万字5 31 -
完結第13話
夫が毎日3回トイレを磨く理由
結婚五年。紗季は、温厚で家事にも協力的な夫・玲央と、四歳の娘・莉乃と平穏に暮らしていた。ただ一つ奇妙だったのは、夫が毎日三回もトイレを掃除し、誰にも触らせなかったこと。 ある日、法医学者の親友・美代子が、トイレの排水設備から人間の歯と古い血痕の痕跡を発見する。調査を進めると、この家では六年前、玲央と同棲していた婚約者が突然姿を消していた。夫婦|真実|真相1.5万字5 260 -
完結第12話
二十六年目の告白
余命わずかな夫・浩司は、妻ゆみに衝撃の告白をする。二十六年前、ゆみが産んだ息子と愛人の子を、病院で密かにすり替えたというのだ。 だが、ゆみはすべてを知っていた。夫の行動を目撃し、名札を元へ戻していたため、浩司が愛人の子だと信じて溺愛してきた誠は、紛れもなくゆみの実子だった。夫婦|真相|親子関係|修羅場|不倫1.7万字5 21 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 18 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 21 -
完結第14話
赤ちゃんの声が聞こえる姪が、夫の嘘を見抜いた日
生後一か月の息子を見た六歳の姪・美久は、「赤ちゃん、お父さんにひどいことをしないでって言ってる」と告げる。その言葉に、夫・徹だけが激しく動揺した。 育児をせず、暴言を重ねる夫に違和感を抱き始めた亜鳥。やがて美久が書斎で見つけた封筒から、亜鳥を被保険者、徹を受取人とする高額な生命保険の書類が発見される。 さらに調べると、徹には隠していた借金と別の女性がいた。夫婦|真実|真相|親子関係1.4万字5 1192 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 688 -
完結第15話
午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる
午前2時17分。夜勤看護師の由衣は、面会時間を過ぎた病棟で黒いコートの女性を目撃する。 女性が立ち止まったのは、家族との連絡を拒み続ける71歳の患者・久世修一の病室前。だが受付記録にも防犯カメラにも姿はなく、乗り込んだエレベーターからも忽然と消えていた。 修一は女性の特徴を聞くと顔色を変え、10年間疎遠だった娘へ連絡してほしいと頼む。やがて判明したのは、黒いコートが10年前に亡くなった妻・美佐子のものと同じだったこと。そして彼女が息を引き取った時刻も、午前2時17分だった。 妻の最期に間に合わなかった父と、その父を許せなかった娘。再び同じ時刻にエレベーターが開く夜、10年間止まっていた家族の時間が静かに動き始める。ミステリー|夫婦|真実|真相1.4万字5 121