"空港に置き去りにされた妻は、もう帰らない" 第5話
だった。
封筒から引きされた枚の取引細と、改ざんされた領収のコピー。 そこに並ぶ数字を指先でなぞりながら、私はく呟いた。
「健、お義母さん。……あなたたちは、自分が何をやらかしたのか、まだ何も分かっていないのね」
その、バッグので私のスマートフォンが、けたたましい子音を鳴らして激しく震え始めた。 画面に表示された発信者名は――
【健】
。
空港で私を置きりにしてから、ちょうど。 予定通り、最初の「爆弾」が、あの親子ので炸裂したのだ。
画面に浮かぶ着信通を、私は徹な線で見つめ、親指をスライドさせた――。
「もしもし?」 私が極めて平穏な声で話にると、受話器の向こうから、鼓膜を破らんばかりの声がび込んできた。
『ゆりィィッ!! お、今どこにいるんだよッ! なんで話にないんだ!!』
健の声は完全に擦り、息も絶え絶えだった。背景からは、キーキーとヒステリックに叫ぶ義母・美佐子の喚き声と、けたたましく鳴り響く何台ものオフィスの保留音が混ざりって聞こえてくる。
「どこって……空港に置きりにされたから、言われた通り歩いて帰っている途ですけど? まだ千葉県の田んぼよ。あとはかかるかしら」
『嘘つけッ! そんな悠なこと言ってるか!! おい、お、体何をしたんだ!? 会社に何をしたんだよ!!』
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「何をしたって……私は何もしていませんよ。張から帰ってきて、ただ歩いているだけです」
『とぼけるなッ!』 健の絶叫が響く。 『成田から会社に戻ったら、オフィスの話が鳴り止まないんだよ! お得先からの予約キャンセルと取引止の話が、件以も殺到してるんだ! 「マツオカ・トレーディングとは度と取引しない」って、みんなを揃えて鳴り込んできてるんだぞ! おが何か吹き込んだんだろッ!』
私はため息交じりに、静かに言葉を返した。 「健さん。お客様は、正規の級ブランド品を求めて予約してくださっていたのよ。私が話本かけただけで、もの顧客が契約をキャンセルするはずがないでしょう? し考えれば分かることじゃない」
『じゃあなんでこんなことになるんだよ!! 説しろ!!』
「理由は簡単よ。……あなたたちが、私の父を『貧乏なラーメン』だと侮辱し、私を空港に置きりにしたからよ」
『はあ!? おの親父のラーメンなんか関係あるか! あんな底辺の――』
「底辺の、ねえ」 私はややかに笑った。 「私の父、松岡宗はね。全国にチェーンを展するグループ企業の会よ。そして、あなたたちの直営で数百万円から数千万円の級計や宝を買ってくれていたお得様たちのくは……父の古くからの財界仲や、父の紹介で取引を始めてくれた方々よ」
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受話器の向こうが、ピタリと静まり返った。 呼吸音すら消えた完全な沈黙。
「私が成田で置きりにされた直、智を通じて父に事の顛末を報告したの。『夫と義母に空港で捨てられたから、婚する』ってね。……父がその話を、親しい友たちにどう伝えたか、あなたに像できるかしら?」
『な……ぜ……全国……チェーン……?』 健の掠れた声が、信じられないというように震えていた。
「ええ。父の仲の方々は、とても義理堅いたちばかりよ。『友の娘を蹴にし、犯罪まがいの嫌がらせをするような会社のから、誰が級品を買うか』――そう判断されただけのことよ。すべて、あなたたちの自業自得よ」
『ふ、ふざけるなッ!』 再び健が狂乱したように鳴った。 『営業妨害だ! 威力業務妨害だぞ! 損害賠償を請求してやる! 何千万もの損害がてるんだぞ! それにおとは婚だ! 慰謝料を円も払わずに叩きしてやるからな!!』
「損害賠償? 婚?」 私は声を段くし、徹に言い放った。 「望むところよ。ただし、慰謝料を支払うのはあなたたちのほうよ。……、覚悟しておきなさい」
私は方に通話を切断し、健の番号を着信拒否に設定した。 は都に入り、比の弁護士事務所へと滑り込んでいった。
翌の午。 の柔らかな差しが差し込む、港区にある松岡の本邸。
入れのき届いた広な本庭園を望む応接で、私は父の宗、弟の智、そして実の顧問を務めるベテラン弁護士の相原と共に、い本茶をんでいた。
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