"妻の予定表に書かれた「最終日」" 第1話
最終という予定
妻のスマートフォンに、僕たちの結婚記が「最終」と登録されていた。の夜、卓の端でった画面にその文字が現れたとき、僕は湯みを持ったままけなくなった。呂からはシャワーの音がしている。通には「 最終 」と表示され、すぐに画面が暗くなった。僕は端末に触れていない。それでも見てはいけないものを見たような気がして、湯みを置く音さえ気になった。
は、僕と紗季の結婚記だった。のその、僕たちは区役所に婚姻届をし、駅裏のさなレストランで夕をべた。子どもはいない。今は歳の僕と歳の妻が、でマンションに暮らしている。夫婦仲がひどく悪いと考えたことはなかった。鳴りいもせず、活費のことで揉めることもない。ただし、何も揉めないことと、何も問題がないことが同じかどうかは、あの晩まで考えたことがなかった。
「最終」とは何の最終なのだろう。勤務先の締め切りか、何かの講座の終かもしれない。そうおうとしたのに、付が結婚記であることが、別のを勝に連れてきた。妻は結婚活を終わらせるつもりなのではないか。そんな考えを打ち消そうとして、僕は自分が最の妻の予定をほとんどらないことに気づいた。
広告
彼女が今どんな仕事をしているのか、週末に誰と会っているのか、最にまともに尋ねたのはいつだっただろう。
浴の扉がき、紗季が髪をタオルで包んでてきた。「まだ起きてたの」と言われ、僕は仕事のメールを確認していたと答えた。彼女はそれ以聞かず、蔵庫から麦茶をしてんだ。以なら僕の帰宅を聞き、夕を温め直すか尋ねていた妻が、今は自分のみ物だけを用している。それを僕は、互いに気を遣わずに済むようになった証拠だとっていた。
「の半ば、忙しい?」と紗季が先に聞いた。突然だったので、僕は「たぶん、いつもどおり」と曖昧に答えた。彼女はさく頷き、「そう」とだけ言って寝へ向かった。僕は呼び止めかけたが、何を聞けばいいのか分からなかった。のことなのか、仕事のことなのか。彼女が聞きたかったのはどちらなのだろう。僕は卓に残されたつの湯みを洗いながら、返事をする会をつ逃した気がした。
その夜、ベッドので紗季は先に眠った。隣にいるの呼吸を聞きながら、僕はスマートフォンの予定表をいた。自分のの欄には、営業会議と取引先への報告だけが並んでいる。結婚記の文字はなかった。僕は慌てて予定を追加したが、通の刻を決められなかった。
広告
夜に何かをすれば取り戻せるのか、それとももう遅いのか。保ボタンを押したあとも、妻の画面に浮かんだ「最終」の文字は消えなかった。
結婚したばかりの頃、僕は残業で遅くなると必ず話を入れていた。紗季はそのたびに「ご飯は取っておくけど、帰りは気をつけて」と言い、僕はその声を聞くと急いで帰りたくなった。今は遅くなることを社内の予定表に入力し、妻にはいメッセージを送るだけだ。いつから話をやめたのか、きっかけも覚えていない。習慣が変わるとき、僕たちはいつもで決めてきたわけではなかった。
翌朝のことを考え、僕は台所のさなホワイトボードを見た。以は週末の予定を互いにき込んでいたが、今はごみの収集しか残っていない。僕のらない妻の予定が増えたのではなく、僕が尋ねなくなった分だけくがなくなったのかもしれない。その能性をいつくと、別れを告げられる恐怖とは違う、鈍い悔が胸に残った。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
元夫の再婚式に招かれた私には、秘密がある
離婚から五か月後、元夫が若い再婚相手を連れ、結婚式の招待状を届けに来た。だが由美が抱く生後二か月の男児を見た瞬間、元夫の笑顔は凍りつく。 由美は離婚時、すでに妊娠していた。さらに彼女の手元には、元夫の裏切りと消えた夫婦の財産を示す証拠も残されていた。 捨てられた妻が過去を暴くだけでなく、息子とともに自分の人生と安心して帰れる家を取り戻す再生の物語。夫婦|親子関係|不倫2.6万字5 3 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 2 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 1 -
完結第20話
月30万円の親孝行は、誰の財布から?
夫から突然告げられた、義母への「毎月三十万円」の仕送り。妻・美奈子は反対せず、静かに「いいよ」と答えた。 三日後、銀行で残高四万円を知らされた夫は激怒する。だが美奈子は、二十二年間で家計へ補填した一千二百万円超の記録を並べ、「その三十万円、誰の収入から出すつもりだったの?」と問い返す。嫁姑|夫婦|介護|金銭問題2.8万字5 6 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 0 -
完結第20話
路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算
娘の顔合わせに路線バスで訪れた庄三は、相手の両親から「車も持てない乞食」と嘲笑される。婚約者まで黙って見ていたため、庄三はわずか五分で破談を告げた。 しかし庄三の正体は、県下一の交通グループを一台の中古バスから築いた創業者。翌日、社運を懸けた大型工事のコンペ会場で、相手親子は上座に座る庄三と再会する。職場逆転|人生逆転|第二の人生|金銭問題2.6万字5 81 -
完結第15話
白米だけの夕飯を出されたので、家を出ました
年度末の仕事を終えて帰宅した麻子を待っていたのは、冷めた白米だけの夕食。夫と義母は特上寿司を食べながら、「反省したらおかずを出す」と笑った。 「外で牛丼でも食べてきたら?」という夫に、麻子は静かに「分かりました」と答える。しかし彼女は半年前から新居や弁護士の手配を進め、大切な荷物も運び終えていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|修羅場2.0万字5 125