"妻の予定表に書かれた「最終日」" 第2話
覚えていたんだ
翌朝、紗季はいつもよりく起きていた。台所には焼いたパンとさなサラダが並び、僕の分のコーヒーも淹れてある。僕は席に着きながら、のことを切りす会を探した。聞の気欄を読みげるような調子で「来週の曜、何かする?」と尋ねると、紗季はカップを元に運んだままし考えた。「何かって?」と聞き返され、僕はった以に声をさくして「結婚記だから」と答えた。
妻は顔をげ、僕をまっすぐ見た。「覚えてたんだ」と言った声には、びよりも驚きがあった。僕は反射に「それくらい覚えてるよ」と返したが、予定表に昨夜まで何もいていなかったことをいし、胸が詰まった。付をっていることと、そのを切にしていることは違う。紗季はそれを指摘しなかった。ただ「そっか」と言ってパンの皿を流しへ運んだ。
「どこか事にかないか」と続けると、紗季は振り返らずに「いいよ、今は」と答えた。僕はその言葉の半を何度も考えた。今はかないというなら、はどうだったのだろう。の、僕は阪へ張していた気がする。いや、それはだったかもしれない。記憶をたどろうとしても、仕事の案件名ばかり浮かび、妻と過ごしたがどこにも見つからなかった。
広告
勤、紗季が廊の収納から段ボールをしているのが見えた。古い器を聞に包み、使わなくなった瓶を別の箱に分けている。「掃除にはいんじゃない?」と聞くと、「今ならがあるから」と言った。箱の側面には、油性ペンで「残す」「放す」とかれていた。僕は「放す」という字を見ただけで、ののものすべてが急に定になったようにじた。
会社へ向かうので、僕は昨夜登録した予定をき、昼の会議を別のにかせないか確認した。会議自体は調できそうだったが、の夜を空けたところで何をすればいいのかが分からない。を買う、を予約する、旅を提案する。どれもいついた瞬、分の空に急いで蓋をするようにじられた。僕は紗季の好きなさえ、最は答えられないことに気づいた。
昼休みに妻へ「今夜、めに帰る」と送った。返信は分ほどして届いた。「分かった。私は友達と会うから夕飯は先に済ませてね」。僕は友達の名をらなかった。何度か画面に「誰と?」と打ち込んだが、尋問のように見えそうで消した。代わりに「解」と送る。い文字を送ったあと、僕はそれがこの数で最もく妻に返してきた言葉だとい当たった。
帰宅すると、台所の引きしに入っていたはずの予備の箸が減っていた。
広告
玄関には資源ごみ用の袋がつ並び、廊の棚からは旅先で買った置物が消えている。僕が気にし始めたから変化が目につくのか、それとも本当に妻は何かの準備をしているのか。確かめるには本に聞くしかないのに、僕は自分の恐怖を「まだ決めつける段階じゃない」と言い換え、結局その夜も何も聞かなかった。
職に着くと、僕は同僚の野にの会議をめられないか相談した。「珍しいですね、瀬尾さんが私用で調なんて」と言われ、返す言葉に困った。僕は族の用事を回しにすることを、責任の証拠のように扱ってきた。野は「資料ならに共してくれれば丈夫です」とすぐ答えた。今までできないとっていたことのつは、頼みもしなかっただけだった。
夕、僕は妻の器を洗おうとしたが、紗季が「もう終わったよ」と言った。片づけの順番も、洗剤を買う期も、いつのにか彼女が把握している。伝うと言いながら何をすればいいか尋ねる僕を見て、紗季は苦笑した。「自分のなんだから、見れば分かるでしょ」。その言に責める響きはなかったが、僕はなぜか目をわせられなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
元夫の再婚式に招かれた私には、秘密がある
離婚から五か月後、元夫が若い再婚相手を連れ、結婚式の招待状を届けに来た。だが由美が抱く生後二か月の男児を見た瞬間、元夫の笑顔は凍りつく。 由美は離婚時、すでに妊娠していた。さらに彼女の手元には、元夫の裏切りと消えた夫婦の財産を示す証拠も残されていた。 捨てられた妻が過去を暴くだけでなく、息子とともに自分の人生と安心して帰れる家を取り戻す再生の物語。夫婦|親子関係|不倫2.6万字5 3 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 2 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 1 -
完結第20話
月30万円の親孝行は、誰の財布から?
夫から突然告げられた、義母への「毎月三十万円」の仕送り。妻・美奈子は反対せず、静かに「いいよ」と答えた。 三日後、銀行で残高四万円を知らされた夫は激怒する。だが美奈子は、二十二年間で家計へ補填した一千二百万円超の記録を並べ、「その三十万円、誰の収入から出すつもりだったの?」と問い返す。嫁姑|夫婦|介護|金銭問題2.8万字5 6 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 0 -
完結第20話
路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算
娘の顔合わせに路線バスで訪れた庄三は、相手の両親から「車も持てない乞食」と嘲笑される。婚約者まで黙って見ていたため、庄三はわずか五分で破談を告げた。 しかし庄三の正体は、県下一の交通グループを一台の中古バスから築いた創業者。翌日、社運を懸けた大型工事のコンペ会場で、相手親子は上座に座る庄三と再会する。職場逆転|人生逆転|第二の人生|金銭問題2.6万字5 81 -
完結第15話
白米だけの夕飯を出されたので、家を出ました
年度末の仕事を終えて帰宅した麻子を待っていたのは、冷めた白米だけの夕食。夫と義母は特上寿司を食べながら、「反省したらおかずを出す」と笑った。 「外で牛丼でも食べてきたら?」という夫に、麻子は静かに「分かりました」と答える。しかし彼女は半年前から新居や弁護士の手配を進め、大切な荷物も運び終えていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|修羅場2.0万字5 125