みかん小説
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"妻の予定表に書かれた「最終日」" 第7話

聞き流した転職

翌朝、紗季が勤の準備をしているところで、僕はい切って「今の仕事、どんなことをしてるの」と尋ねた。彼女はブラウスの袖をえながら「にも話したとうけど」と言った。責める調子ではなかったが、僕は顔がくなった。「聞き直してもいい?」と頼むと、妻はし迷い、テーブルの子を引いた。発まで分ほどしかなかったので、僕は計を伏せ、彼女の方を向いた。

紗季はから、域のさな版社で編集補助の仕事をしていた。それまでは文化センターの受付と講座運営を担当していたが、利用者向けの冊子を作るうちに、編集の仕事をもう度やりたくなったのだという。今は元のやを紹介する季刊誌の正、取材の文字起こし、写真の理などをしている。勤務数はまだないが、からしい企画にも関わることになった。「覚えてないとうけど、採用が決まったに話したよ」と紗季は言った。

そののことをいそうとして、僕はうっすらと記憶が戻った。の夕、妻が「来から仕事が変わる」と言い、僕は会社の資料を見ながら「よかったじゃん」と答えた。待遇も勤務も聞かず、なぜ転職したいとったのかも尋ねなかった。紗季が話を続けようとした、取引先から話が入り、僕は席をれた。

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そのあと会話を戻さなかった。僕には数分の来事だったが、妻にとってはく考えて決めた仕事の話だった。

「それ、楽しい?」と聞くと、紗季はしだけ笑った。「変だけど、好きだよ。文章を直して、誰かの言いたいことがちゃんと届くようになる瞬が好き」。僕はその表を見て、結婚の彼女をいした。古本で見つけた集の誤植を楽しそうに教えてくれた顔だ。「今度、できた冊子を見せて」と言うと、妻は「もう冊、にあるよ」と答えた。居の本棚に置かれたい冊子を、僕は広告のようなものだとっていたこともなかった。

妻がかけたあと、僕は本棚からその冊子を取りした。奥付にはさく「編集協力 瀬尾紗季」とある。の取材記事には、く続けてきた仕事を子どもに引き継ぐ主の話が載っていた。紗季が付箋を貼った箇所には「受け継ぐことと、同じ形のまま続けることは違う」とかれている。僕はその文を何度も読んだ。妻が選んだ仕事も、その言葉も、僕のらないところで積みなっていた。

冊子の最には、編集に携わったたちのいコメントが載っていた。紗季は「取材相の言葉を勝にきれいにしすぎないようにしたい」といている。僕はそれを読み、妻がの話を丁寧に受け取る仕事を選んだことに納得した。

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彼女が僕に求めていたのも、派な答えではなく、まず言葉をそのまま聞くことだったのかもしれない。

昼休み、野から「の会議、を変更できました」と連絡が来た。僕は礼を言い、仕事を分担するための資料をまとめた。会議をかすこと自体は難しくなかった。難しかったのは、自分が族の用事を優先していいと認めることだった。僕はこれまで、忙しいという言葉を説にも謝罪にも使ってきた。忙しいから仕方ないと繰り返すうちに、誰も僕へ何かを頼まなくなっていた。

帰宅した紗季は、僕が冊子を読んだとってし驚いた。「写真、きれいだね。取材も面かった」とを伝えると、「ありがとう」と言って隣に座った。記事の取材先について分ほど話し、僕は途で仕事の通が鳴ってもスマートフォンを伏せた。妻はそれに気づいたようだったが、何も言わなかった。会話が終わると彼女はちがり、「今度はもっと面い特集になるとう」と言った。その背を見ながら、僕は聞けば答えてくれることと、聞かなかったことのさを同にじていた。

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