みかん小説
本棚

"妻の予定表に書かれた「最終日」" 第10話

の部

産会社の封筒を見て以来、僕は妻の荷物の変化に敏になっていた。本棚の段には空きができ、押し入れから古いスーツケースがされている。引っ越しの準備だと決めつけたくなかったが、という付は消えない。紗季がをるなら、僕は何をするべきだろう。止めるのか、理由を聞くのか、それとも彼女が選んだこととして受け止めるのか。僕は答えをせないまま、机に向かっていた。

夕のあと、紗季が計簿をいていた。僕たちは共働きで、宅ローンと管理費は僕の座から、費や用品は紗季の座から支払っている。きな支は相談してきたつもりだったが、実際には々の残を妻に尋ねるだけだった。紗季は通帳と領収を理し、数字をつずつ確認していた。「何かきな買い物でもするの」と聞くと、「活費を見直してる」と答えた。

僕はその、妻の収入を正確にらないことに気づいた。しい職でどれくらい働き、何におを使い、どの程度貯しているのか。僕は自分の収入が計のだからといって、妻の働き方を詳しくる必はないとっていた。紗季は必な分をきちんと支払い、僕に余計な負担をかけないようにしてきた。そこに甘えた結果、彼女の活を支えるものが何かさえ分からなくなっていた。

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「のこと、これからどうするつもり?」と僕は尋ねかけた。紗季が顔をげたので、言葉を選び直した。「いや、宅ローンの繰りげ返済、今は見送ろうとって」。妻は「そうなんだ」と答え、計簿を閉じた。僕はまた逃げた。話の入りまで来ておきながら、自分に都のよい話題へすり替えた。彼女はそのことに気づいたのかもしれないが、何も追及しなかった。

寝に戻ると、ベッド脇の棚に枚のメモが置かれていた。そこには「 類」「具の寸法」「気の続き」といてある。僕は見ないふりをして、着替えを取りにクローゼットへ向かった。妻が自分のための部を借りるなら、それはに距を置くためかもしれないし、もっとい別居の始まりかもしれない。いずれにしても、僕が彼女の選択をらなかったことだけは確かだった。

その晩、僕は紗季がいつも使っていたさな鍋で夕を作った。加減が分からず野菜をし煮すぎたが、妻は「はおいしいよ」と言った。僕は料理の来を褒めてもらうことより、次に自分が困らないよう順を覚えることを識した。卓に分の皿を並べながら、からはそれぞれが自分の事を作るのだとった。

翌朝、僕はマンションの管理費の細と計の覧を印刷した。妻がていくと決めたに、費用の話を曖昧にして困らせたくなかったからだ。

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財産の分け方やまいのことを考えると胸が苦しくなったが、数字は僕のとは関係なくそこにあった。夫婦であることを続けるかどうかは、気持ちだけで決まらない。む所、仕事、毎の支払い、誰が何を持つのか。僕はそれらを度も真剣に話しってこなかった。

夕方、紗季が帰ってきた、僕は「何か伝えることがあったら言って」と声をかけた。妻は靴をそろえながら「今は丈夫」と答えた。「今は」という言葉が引っかかったが、僕はそれ以踏み込まなかった。伝いを申しるだけでは、彼女が何を抱えているかは分からない。僕はようやく、妻の活に関を持つことと、妻のを管理することは別だと気づき始めていた。

僕は印刷した計の覧を封筒に入れ、机の引きしにしまった。これを突きつけて別居を阻止するようなことだけはしたくなかった。活費の負担は話しう必があるが、妻の居所を決める権利まで僕にあるわけではない。そう考えた、を守ることと、の関係を守ることは同じではないのだと初めて分かった。

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