みかん小説
本棚

"妻の予定表に書かれた「最終日」" 第12話

借りた部

の夕方、紗季が「し話してもいい?」と言った。僕は卓に置いていた仕事の資料を閉じた。妻はつのカップにお茶を注ぎ、自分のにい封筒を置いた。差は、あの産会社だった。僕はその名を見た瞬、胸の奥がたくなった。彼女が封筒を差しすまで、僕はそれを見たことがあるとは言わなかった。

「から、さな部を借りることにしたの」と紗季は言った。駅の反対側にあるで、版社へ通いやすく、机と本棚を置ける広さだという。仕事用の所として探し始めたが、考えているうちに、しばらくそこで活することもできる部を選んだ。「ここをるってこと?」と僕が聞くと、紗季はしを置いて頷いた。「なくとも、しのは」。

僕はすぐに「どうして」と聞きたくなった。けれど理由は、妻がこれまでに見せていた数え切れない沈黙のにあったはずだ。紗季はカップを両で包み、「あなたが嫌いになったから、とはし違うの」と続けた。「にいると、いつのにかあなたの帰るを気にして、事をどうするか考えてしまう。頼まれていないのに、昔の私に戻ってしまうのが苦しい」。その言葉を聞き、僕は妻が何も言わず事をしていた理由を初めて別の角度から見た。

「自分の活を、度自分で決めてみたい。

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何にべるか、どこで寝るか、休に何をするか。そんなことも、ここにいるとあなたの予定を先に考えてしまうの」。紗季は淡々と話した。僕は自分が命令したことなどないと言いたくなったが、言わなかった。命令しなくても、の習慣がに負担を寄せることはある。僕が帰ると温かい事があるのを当然だとっていたことが、その証拠だった。

「婚したいの?」と、ついに僕は尋ねた。紗季はすぐに答えなかった。「まだ決めてない。別にんでみて、それから考えたい」と言った。僕は救われた気持ちになりかけ、すぐにその考えを恥じた。彼女にとってはきな決断をにした面なのに、僕は婚が確定していないことだけをぼうとしている。「分かった」と答えると、紗季はし驚いたように僕を見た。

「引っ越しの費用やのことは、緒に理しよう」と僕は続けた。「あなたが働いて貯めたおを、僕が当然みたいに考えたくない。必な類も用する」。紗季はさく息を吐いた。「ありがとう。でも、すぐにいい夫になろうとしなくていいから」。その言葉には優しさと距があった。僕は頷き、計の覧を作ってあることだけを伝えた。妻は「今度、見せて」と言った。

会話が終わってからも、はしばらく席をたなかった。窓ので自転のベルが鳴り、隣の部から器の触れう音が聞こえた。

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僕はこのにで残ることを像した。いつも同じ所にある器も、洗面所のタオルも、紗季が選んだものだった。をるのは妻でも、これまでの暮らしを変えなければならないのは僕も同じだった。

そのあと紗季は、しい部の取り図を広げた。窓のくにさな机を置き、本棚は入の壁に沿わせるつもりだという。僕が「机、運ぼうか」と聞くと、妻は「業者さんに頼んでるから丈夫」と答えた。断られても嫌にならずにいられたことに、僕はし驚いた。彼女が自分で決めた段取りを、そのまま尊すればよかったのだ。

寝る、紗季は「の夜は、私は予定があるから」と言った。「ってる」と言いそうになり、僕はを閉じた。「うん」とだけ答えると、彼女は「帰りは遅くなるとう」と続けた。僕は引き止めなかった。妻が別の部を借りた理由は聞けた。それでも、結婚記を「最終」と名づけた理由はまだ、本のから聞いていなかった。

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