"妻の予定表に書かれた「最終日」" 第19話
らなかった
メイン料理が終わる頃、紗季が「今の仕事のこと、もうし話してもいい?」と言った。僕は「聞きたい」と答えた。彼女はから勤めている版社で、商のたちの記憶を集める特集を担当しているという。取材先の主が昔の写真を持ちしてくれたこと、閉した喫茶のメニューを保する企画がんでいることを、楽しそうに話した。僕は質問をし、話の途で自分の仕事の話にすり替えないようにした。
「そういえば、駅の喫茶が閉まったの、ってる?」と妻が聞いた。僕は首を振った。結婚、待ちわせによく使っただった。「先、最のにってきたの」と紗季は言った。「主さんがもう歳で、体力に難しいんだって。最の杯をんだら、しいけど、ちゃんと終わるのも事なんだとった」。僕は妻がこの数週、いの所を巡っていた理由の部を理解した。彼女は過を壊したかったのではなく、自分で区切りをつけようとしていたのだ。
「映画も見にったんだね」と僕が言うと、紗季はし笑った。「探偵さんの写真にあった?」。僕は頷いた。「席買ったのは、昔の私と見たかったから」と妻は答えた。「あなたと見たは、あのが会えなかったことばかり考えてた。でも今は、待つのをやめたも、その先をきていいとえた」
広告
。彼女はしばらく黙り、「で映画を見るの、案好きだった」と続けた。僕はその発見を、妻のものとして受け止めた。
のコーヒーが運ばれると、紗季は髪をにかけた。僕はそこで初めて、彼女が髪をくしていることを識した。「髪、切ったんだね」と言うと、「かにね」と笑われた。僕は顔がくなった。妻は「今気づいたの?」と責めるでもなく尋ねた。「うん。ごめん」と答えると、「似う?」と聞かれた。僕はし考え、「似う。より表がよく見える」と言った。紗季は「ありがとう」と答えた。
「からの部、楽しみ?」と僕が聞くと、妻は「し怖いけど、楽しみ」と言った。夜にでべるご飯、初めて使う台所、仕事の本を好きなだけ広げられる机。彼女はそうしたことを具体に話した。「でいることが、寂しいだけじゃないって確かめたいの」。僕は「分かった」と答えた。戻ってきてほしい気持ちはある。けれど、その気持ちを理由に妻のしい活を狭くしたくなかった。
「これから、どうしたらいいとう?」と僕は尋ねた。紗季はし考え、「まず、別々に暮らしてみる。連絡は必なことだけじゃなくて、話したいことがあれば話す。でも、毎報告する約束はしない」と言った。僕は頷いた。「に度くらい、緒に事するのはどう?」と提案すると、妻は「そのの気持ちで決めたい」
広告
と答えた。僕は「うん、それでいい」と言った。今度は相の答えを先回りして決めないようにしたかった。
紗季は鞄から冊のい冊子を取りした。表には古い商の写真があり、彼女が編集に関わった特集の見本だという。僕は最初の記事を読み、取材された靴職が「続けるためにやり方を変えた」と話している箇所でを止めた。紗季は「私、この言葉が好きなんだ」と言った。僕はその理由を尋ね、彼女が話し終えるまで待った。妻の仕事の成果を、初めて緒にべた気がした。
員が伝票を持ってきた、僕は「今は僕が払いたい」と言った。紗季は「記だから?」と尋ねた。僕は「そう。でも、払ったから何かが変わるとはってない」と答えた。妻はしばらく考え、「じゃあ、コーヒーは私がごちそうする」と言った。僕たちはそれぞれ支払いを済ませた。の僕なら、全部払うことが夫らしさだとっただろう。今は、が自分ので決めることの方が切にえた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
元夫の再婚式に招かれた私には、秘密がある
離婚から五か月後、元夫が若い再婚相手を連れ、結婚式の招待状を届けに来た。だが由美が抱く生後二か月の男児を見た瞬間、元夫の笑顔は凍りつく。 由美は離婚時、すでに妊娠していた。さらに彼女の手元には、元夫の裏切りと消えた夫婦の財産を示す証拠も残されていた。 捨てられた妻が過去を暴くだけでなく、息子とともに自分の人生と安心して帰れる家を取り戻す再生の物語。夫婦|親子関係|不倫2.6万字5 3 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 2 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 1 -
完結第20話
月30万円の親孝行は、誰の財布から?
夫から突然告げられた、義母への「毎月三十万円」の仕送り。妻・美奈子は反対せず、静かに「いいよ」と答えた。 三日後、銀行で残高四万円を知らされた夫は激怒する。だが美奈子は、二十二年間で家計へ補填した一千二百万円超の記録を並べ、「その三十万円、誰の収入から出すつもりだったの?」と問い返す。嫁姑|夫婦|介護|金銭問題2.8万字5 6 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 0 -
完結第20話
路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算
娘の顔合わせに路線バスで訪れた庄三は、相手の両親から「車も持てない乞食」と嘲笑される。婚約者まで黙って見ていたため、庄三はわずか五分で破談を告げた。 しかし庄三の正体は、県下一の交通グループを一台の中古バスから築いた創業者。翌日、社運を懸けた大型工事のコンペ会場で、相手親子は上座に座る庄三と再会する。職場逆転|人生逆転|第二の人生|金銭問題2.6万字5 81 -
完結第15話
白米だけの夕飯を出されたので、家を出ました
年度末の仕事を終えて帰宅した麻子を待っていたのは、冷めた白米だけの夕食。夫と義母は特上寿司を食べながら、「反省したらおかずを出す」と笑った。 「外で牛丼でも食べてきたら?」という夫に、麻子は静かに「分かりました」と答える。しかし彼女は半年前から新居や弁護士の手配を進め、大切な荷物も運び終えていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|修羅場2.0万字5 125