みかん小説
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"路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算" 第1話

分の静かな破談

「もお持ちでないの? まさか、乞じゃないでしょうねえ」

の清々しいれに恵まれた曜。駅の等に佇む老舗料亭『』の、静まり返った広畳の座敷に、氷のようにたく品のない笑い声が落ちた。 言われたのは、今で歳になる島庄(きりしま・しょうぞう)である。 のに最の妻・かず子をくし、男つで護師の娘・美咲(みさき・歳)を育てげてきた父親だ。 本は、美咲が勤める総病院の医師からの紹介で半ほど交際を続けてきた、産会社跡取り・黒田健(歳)との両顔わせの席であった。

庄の膝のには、所の馴染みの菓子で求めた栗蒸し羊羹が、妻が切に使っていた藤の呂敷にきちんと包まれて置かれている。につけているのは、、妻が「あなたが番似うだから」と選んでくれた、しばかり仕ての古い濃紺の背広だった。 だが、その背広の襟元から爪先までを値踏みするように眺め回した相の母親――黒田夫は、扇子で元を隠しながら、隣に座る夫と目配せをして噴きしたのだ。

「事なお席に、銭をジャラジャラ握りしめて線バスでいらっしゃるなんて。ねえ、あなた? うちの息子にたかる気満々なんじゃないかしら」

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座に座る父親の黒田社もまた、腕にはめた豪奢な計を見せびらかすように撫で、太い首を揺らして傲に言い放った。 「はっきり申しげておきますがね、島さん。暮らしでも維持できないようなお宅から嫁をもらって、から仕送りだの同居だのと言いされては叶わんのですよ。の程というものを弁えていただかないと」

座敷のの空気は、完全に凍りついていた。 庄の隣では、淡い桃の訪問着にを包んだ美咲が、膝のでねた両をくなるほどく握りしめていた。爪が掌にい込み、刻みに震えている。き母が成祝いに誂えてくれた切な着物を着て、必に涙をこらえ、父が侮辱される屈辱に耐えていた。 そして、婚約者であるはずの黒田健はといえば――両親の暴言を止めるどころか、俯いたまま湯呑みの茶をすするふりをして、庄と線がうのを怯えるように避けていた。

庄は鳴らなかった。眉を吊りげることも、卓を叩いて声を荒らげることもしなかった。 のので、理尽にをげ、をすするような辛苦を何度も乗り越えてきた男である。この程度の浅な嘲笑で取り乱すような器ではなかった。 庄が静かに見つめたのは、黒田夫妻ではない。 娘の婚約者である健の、その縮こまった背だった。

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――切な娘が目ので両親を侮辱されているというのに、波をてまいと黙り込み、茶をすするだけの男。 そして、唇を血がるほど噛み締め、で耐え忍んでいる美咲の横顔。

(ああ、かず子。おの言った通りだったよ) 病院のベッドで息を引き取る際、妻が遺した言葉が鮮烈に脳裏に蘇る。 『あの子はばかりする子だから、無理をしていないか、お父さんがちゃんと見てあげてね』

庄は、ふっと息をえると、座布団から音もなく畳のへとりた。 背筋を寸分の狂いもなく伸ばし、両を膝のにきちんと揃えて畳につく。 く、だが切の怯えを含まない凛とした声で、相の目を真っ直ぐに見据えて告げた。

「黒田様。を乗り物や札でしか測れぬお宅と、族になることはできません。誠に勝ではございますが、このお話はなかったことにしていただきます」

「……は?」 夫の嘲笑がピタリと止まり、黒田社の顔が呆気に取られて歪んだ。 席についてから、わずか分の来事であった。

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