みかん小説
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"路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算" 第2話

妻の写真と朝の始発

計の針を数だけ巻き戻す。 の第曜、島庄の朝は、まだ夜の帳が濃く残る午半に始まった。 目覚まし計が鳴るよりも数分く、自然と目がくのは、何と染みついた古い習慣によるものだ。 障子をけると、ひんやりと研ぎ澄まされたの気とともに、庭の隅から犀の甘く切ないりがふわりと流れ込んできた。 そのは、妻のかず子が美咲をごもった記に、で庭の黒を耕して植えたものだった。今もまた、無数のさなのが、枝をたわわに染めげている。

「いい気になりそうだな、母さん」 仏の押(なげし)に飾られた遺に向かって、庄は独り言ちた。 畳の寝には、今も部の半分にしか布団を敷いていない。半分は、までかず子が眠っていた所だ。布団を片付け、台所でさな鉄瓶に湯を沸かす。急須に茶葉を入れ、湯呑みをつ並べる。つは自分へ、もうつは仏壇のに供えるためだ。

炊きたてのご飯をさな仏飯器によそい、仏壇の蝋燭にを灯す。線を本てると、青い煙がののを真っ直ぐにちっていった。 遺ののかず子は、美咲が初めてのボーナスで連れてってくれた伊豆の温泉旅館で撮った、浴姿のまま穏やかに微笑んでいた。

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「今だよ、かず子。美咲が選んだと、そのご両親に会ってくる。おの分まで、しっかり相の目を見てくるからな」

朝を済ませ、器を洗い終えた午過ぎ、黒話のベルがく鳴った。 受話器を取ると、娘の美咲のし擦った声が聞こえてきた。 『お父さん、もう起きてた? あのね、やっぱり私がタクシーを配しようかとって。迎えにくから』 「いらんいらん。の目のが留所だし、駅まで本でける。バスでくよ」 『でも……相のお父様、すごくにこだわりがある方みたいだから。線バスで来たなんてられたら、何か言われるんじゃないかって……』 話の美咲の声には、らかに隠しきれない緊張とのが差していた。庄はそれを敏に察した。

「美咲。俺は俺だ。腰がってに迷惑をかけるに、自分の志で免許を返納したんだ。何も恥じることはない。それに、肩きや見栄で測られるような縁なら、最初からない方がいい。ただの寄りの父親として会って、それでも『美咲さんをください』と言ってくれるなら、おをして任せられる」 受話器の向こうで、美咲がさく息を呑み、それから「……うん、お父さんらしいね」と微笑む気配がした。

話を切った、庄は桐の箪笥の奥から、丁寧に防虫剤の匂いをまとった濃紺の背広を取りした。

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、かず子が所ので何着も肩に当てては首を傾げ、「これが番よ、お父さんは紺が似うもの。美咲の結婚式にもこれを着ていけるわね」と笑って選んでくれた着だ。 いワイシャツに腕を通し、鼠のネクタイを締める。鏡を見ると、結び目がしだけに傾いていた。 以なら、かず子がろからスッとを伸ばし、無言でえてくれたものだ。 庄は自分の器用な指先で、度、度と結び直した。 玄関の(たたき)にり、使い古した黒の革靴を布で丹に磨きげる。靴はそのの歩んできたを表す――それは、若い頃に叩き込まれた職の鉄則だった。

午、所の菓子『松堂』で、予約していた栗蒸し羊羹を受け取った。 「美咲ちゃんのお祝いですね、おめでとうございます」と目を細める女将に礼を言い、袋を丁に断って、かず子の形見である藤の呂敷で包み直す。 「改まった席に袋のまま差しすのは無作法だと、妻によく叱られましてね」 照れくさそうに笑いながらをた庄は、が吹き抜ける留所へと、静かに歩みをめた。

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