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"路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算" 第3話

番の特等席

午分。漏れが揺れる留所のベンチには、買い物籠を膝に抱えた所の老婆が腰掛けていた。 「あら、島さん。今はずいぶんと派な背広で、どちらへ?」 「ええ、娘の顔わせでしてね。ちょっと駅まで」 「まあ、それはおめでたいこと! 奥様もんでいらっしゃるでしょうねえ。でも、島さん、相変わらずバスなんですのね。はもう乗られないの?」 「ええ、妻の周忌がけたに警察へ返納しました。とっさの判断が鈍って、様を傷つけてからでは取り返しがつきませんからな」 「本当にだわ。うちの爺さんなんて、いくら言っても聞かなくて困ってるのに」

世話を交わしていると、通りの向こうから、見慣れたクリームと緑のツートンカラーの体が滑り込んできた。 刻表通りの午分。急ブレーキの兆候すらじさせない、滑らかなだった。 プシューという排気音とともに扉がき、運転席の若い運転――野(おおの・代半ば)が、爽やかな笑顔で子にを当てた。 「元にお気をつけください。ゆっくりで丈夫ですよ」 野はまず、老婆がすりを掴んで全に乗り込むのをじっと見守り、それから庄の姿を見て目を丸くした。

「おや、島さん! 今はまた、ビシッと決めていらっしゃいますね!」

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「娘の顔わせでね。いつも世話になっているよ、野君」 「そうでしたか! おめでとうございます! そのネクタイ、とてもよくお似いですよ」 「そうかね。結ぶのに回もやり直したんだがな」 庄が笑いながら運転席のすぐろの席へ腰をろすと、野はマイク越しに「発します、おくのすりやつり革におつかまりください」と、穏やかで落ち着いたアナウンスを内に響かせた。

バスがゆっくりときす。 窓のには、庄が半世紀以を見つめ続けてきた町の景が流れていた。 古い造の商、子供たちの歓声が響く児童公園、そして美咲が通った学の庭。 のには、妻のかず子が傘を本抱え、この線バスに乗って美咲を迎えにったものだった。帰りの内で、美咲が『運転さんが、邪ひかないようにねって言ってくれたよ』と嬉しそうに話していた横顔が、昨のことのようにいされる。

庄がなぜ、自用を放したもタクシーを使わず、毎この線バスに乗るのか。 それは単に免許を返納したからだけではない。 バスのには、この町で懸命にきる々の息遣いがそのまま乗っているからだ。 学帰りのたちのない笑い声、い荷物を抱えた主婦の世話、杖をついた老が席を譲られて浮かべるはにかんだ笑顔。

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野のような運転が、お寄りが座席にく腰掛けるまで発を待つ優しさ、のに傘を畳む乗客を急かさない気配り。 それらのつひとつが、庄にとっては何物にも代えがたい「の温度」だった。

(美咲が選んだは、こうした温もりを分かちえるだろうか) 膝のの藤の呂敷包みを撫でながら、庄はさく胸の内で呟いた。 今朝の話で美咲が見せた、あのわずかな声の曇り。 『相のお父様、がお好きな方だから……』 見栄や虚飾に囚われず、元にあるさな幸せに謝できる庭であってほしい。親の願いは、ただそれだけだった。

バスは定刻の分、駅のバスターミナルへと滑り込んだ。 「ってらっしゃい、島さん。良いになりますように!」 野の温かい見送りを受け、庄は「ありがとう、帰りも頼むよ」と軽くを挙げてした。 ロータリーには、桃の着物にを包んだ美咲が、の陽射しので待っていた。

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