みかん小説
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"路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算" 第16話

落とした袋と、の終バス

その同じの夕暮れ。 り続くたいの、庄の自宅の仏には、本の線が静かに灯っていた。 「かず子。俺は、何もししなかったよ」 遺ののかず子は、いつもと変わらぬ優しい笑顔を浮かべている。 「何もしないでじっと見ているというのは、像以に骨が折れるものだな。おがきていたら、『よくしましたね』と、いお茶でも淹れてくれただろうに」 庄はでさく笑い、湯呑みのお茶をすすった。

ガラリと玄関の引き戸がく音がした。 「ただいま、お父さん! 今は準夜勤のだから、煮物を作りに寄ったよ!」 美咲のるい声が、廊に響き渡った。 あのからヶ。美咲の顔からは、あの張り詰めたような疲れと迷いが完全に消えっていた。 総病院の護師としての仕事に誇りを持ち、休は実に顔をしては、蔵庫におかずを作り置きしていく。 そして議なことに、以は自分の軽自を運転して実へ来ていた美咲が、最は決まって駅から線バスを使ってやってくるようになっていた。

「今のバスもね、すごく運転が丁寧だったのよ」 エプロンを締めながら、美咲が台所から何気ない調で話しかけてくる。 「のは傘を畳むのに取るお寄りがいでしょう? 運転さんがね、『ゆっくりで丈夫ですよ、元滑りますからね』って、ひとりに優しく声をかけていて……」

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「そうか。野君の便だったかな」 「えっ……あ、うん。そうみたい」 美咲のたぶが、ほんのりと赤らんでいるのを、庄は見逃さなかった。

話は、の初旬、ある凍てつくの夜に遡る。 病院での激務を終え、終バスに乗って実へ向かった美咲は、座席のにかず子の形見であるエンジの袋を片方落としてしまったのだ。 き母が編みしてくれた、何物にも代えがたい切な袋だった。 翌の昼休み、美咲が勤める総病院のナースステーションに、さな袋が届けられた。 には、汚れを綺麗に洗い落とし、丁寧に乾かされた袋と、枚の便箋が入っていた。

『終点での内点検の際、座席のに落ちているのを見つけました。変温かみのある、切なものとお見受けいたしましたので、失礼を承でお届けにがりました。どうぞお邪など召されませんように。 島交通乗務員・野』

器用で、角張った、だが文字文字に魂が込められた文字だった。 美咲はそのを読んだ瞬、胸の奥底からいものが込みげてきたという。 お礼を言うために、美咲は次の休に野のバスに乗った。その次の週も、またその次の週も乗った。 終点まで揺られ、折り返しのバスで帰るもあった。

バスの窓から、野のろ姿を見つめながら、美咲は気づいていた。

このは、のにるも、決して歩者にしぶきをねげない。 泣いている赤ん坊を抱いた母親には、バックミラー越しに『元気な声ですね、お母さん丈夫ですよ』と笑いかける。 誰も見ていなくても、誰に褒められなくても、毎同じように、乗客の命とを優しく包み込んでっている。

(このは……あの、料亭で黙ってお茶をんでいたとは、まったく違う……) 美咲ののに、しい温かな芽が、確実に息吹き始めていたのである。

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