みかん小説
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"路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算" 第18話

若の呂敷と、畳のの誓い

「野さん、ネクタイが曲がってるわよ」 玄関先で、迎えにた美咲が声で囁くのが聞こえた。 「本当ですか!? 今朝、回も結び直したんですが……!」 美咲が吹きしそうになるのをこらえながら、背伸びをして野のネクタイを優しく直してやっている。 庄は何も見なかったふりをして、茶のの座卓のに座り直した。

客に通された野は、座布団を勧められても頑なに辞退し、畳のに正座した。 だというのに、その額には粒の汗が滲みている。 「本は……お忙しい、貴なおをいただき、誠にありがとうございます!」 野は両で呂敷の結び目を丁寧に解き、から取りした桐箱を、正面を庄に向けて差しした。

「私の母が、今朝番で炊いて持たせてくれました、お赤飯でございます。おにうか分かりませんが、どうぞお納めください」 箱を受け取ると、底からじんわりとした温もりが伝わってきた。 「これはご丁寧に……。お母様によろしくお伝えください。しかし、呂敷とは、今珍しいですね」 庄が微笑むと、野は恐縮してを掻いた。

「母に厳しく言われました。『改まったご挨拶に、袋のまま伺うのは無作法だ』と。……うちは母子庭でして、母は総菜の厨でパートをしながら、私をで育ててくれました。

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学歴も財産もありませんが、礼儀作法だけは倍うるさい母なんです」 「……素らしいお母様だ」 庄は底から嘆の声を漏らした。 物を持つことではなく、相を敬うを切にする庭。それこそが、庄とかず子が何よりも尊んできたき方そのものだった。

美咲がお茶と桜餅を運び、野の斜めろに正座した。 野は度、胸が破裂しそうなほどく息を吸い込んだ。膝のの拳を握りしめ、真っ直ぐに庄の瞳を見据える。 「会……いえ、お父さん……あ、いえ、島さん!」 呼び方に度つまずき、野の顔は茹で蛸のように真っ赤になった。 ろで美咲が元を押さえて肩を揺らしている。

「落ち着きなさい、野君。このでは、私はただの寄りの父親だよ」 「は……はい! 申し訳ありません!」 野は々と畳に両を突いた。 額をに擦り付けるようにして、魂の底から絞りすような声を張りげた。

「私は……ただの介のバス運転です! 派なも、財産もありません! も、表にめたあの古い軽自台きりです! ……ですが!」 野の声が、いに震えた。 「美咲さんを、涯命がけで切にします! もし美咲さんが誰かに笑われるようなことがあれば、私が必ず、そのにって盾になります! 護師の尊いお仕事も、誇りを持って続けてほしいとっています! 夜勤のは、私が必ず温かいご飯を作って待ちます! ……どうか、美咲さんとの結婚をお許しください!!」

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座敷のが、静まり返った。 庭の犀の梢で、を告げる鶯が「ホーホケキョ」と澄んだ声を響かせた。 庄は無言のまま、畳に平伏する青のたくましい背を見つめていた。 の頃、発の指差し確認を忘れて先輩に鳴られていた背。 の朝、誰よりもく営業所に来て、凍えるでバスの根のをろしていた背。 そして――の、泣いている娘を乗せ、どの曲がり角も壊れ物を扱うように、優しく、優しく曲がってくれた、あの温かい背。

庄の元が、ゆっくりと緩んだ。 やがて、堪えきれなくなったように、腹の底から活な笑い声が溢れした。 「ハッハッハッハッハ!」 妻をくしてから、こんなに声で笑ったのは、本当に初めてのことだった。 野が恐る恐る顔をげた。 「あ……あの、何か、おかしなことを申しげましたでしょうか……?」

「いや、すまんすまん!」 庄は目尻に浮かんだ涙を指先で拭い、居まいを正した。 「野君。軽自台しかない、と言ったね。……乗り物なんぞ、何だっていいんだよ」 野が息を呑む。 「軽だろうが、自転だろうが、線バスだろうが構わん。事なのはね、隣に乗せるをどう扱うかだ。……君がをどう切に扱っているかは、私はもう何も、運転席のろから見てっている」

庄は座布団から静かにり、野と同じように畳にを突いて、くをげた。

「娘を……美咲を、よろしく頼みます」 「会……! をおげください、会!」 「会じゃないと言っただろう」 「は……はい! お父さん……!」

ろで、美咲が両で顔を覆って泣き崩れていた。 泣いているのか、笑っているのか、その両方が混ざりった、この世で最も美しい幸福の涙だった。

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