みかん小説
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"路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算" 第19話

甘い卵焼きと、の

座敷の緊張が解け、は茶のに移して、やかな団欒のを持った。 野の母親が持たせてくれた赤飯は、豆がふっくらと炊きがり、絶妙な塩加減で、庄は「うまい、うまい」と度も茶碗をおかわりした。 松堂の桜餅をべながら、野が幼い頃の貧しくも温かかった母とのいを語り、庄とかず子の創業当の苦労話に目を輝かせて聞き入る。

「あの……お父さん」野が改まった表で切りした。 「会社では、これからも私をただの運転として扱ってください。特別扱いは切無用に願います。仲に顔向けができなくなりますし、何より……私は、ハンドルを握ってお客様をお乗せするのが、から好きなんです」 庄はニヤリと笑った。 「言われなくてもそのつもりだ。が社に内贔屓はないぞ。踏切の止が甘ければ、娘婿だろうが容赦なく減処分だ」 「望むところです!」 の笑い声が、夕暮れの茶のによく響き渡った。

夕方、美咲が台所にち、夕の支度を始めた。 蔵庫から卵を取りし、角いフライパンにをつける。 壁に貼られた、き母・かず子のレシピ通りに、汁と醤油をわせ、そして最に――砂糖を盛りに匙、余計に加えた。 ジューッというよい音とともに、甘くばしい匂いが漂ってくる。

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焼きがった黄い卵焼きをべた野は、目をまん丸にして叫んだ。 「う……うまいッ! こんなに美しくて温かい卵焼き、まれて初めてべました!」 美咲が胸を張り、誇らしげに笑った。 「ふふん、母秘伝のなのよ」 仏壇のに供えられた桜餅の隣に、来ての卵焼きが切れ、湯気をてて並べられた。 遺のかず子は、まるですべてを見ていたかのように、満そうに微笑んでいた。

その翌週、駅の再発現では、『平田建設』によるバスターミナルの事が本格に始まった。 事エリアの周囲には、子やベビーカーが余裕を持ってすれ違える、幅メートル以の根付き仮設通が真っ先に設置された。 毎朝、作業着を着た平田社自らが箒を持って通を掃き清め、通りかかる通勤客に「ご便をおかけします、いってらっしゃい!」とをげる姿を、庄はバスの窓からいつも誇らしげに眺めていた。

方、黒田産は駅の豪華な事務所を引き払い、郊のさな雑居ビルのワンルームへと移転したとの噂に聞いた。 あの巨な黒塗りのドイツは処分され、息子の健は今、さな務の作業員としてにまみれ、請けの職たちにをげてから仕事を学んでいるという。 (そうか……健君も、自分ので歩き始めたか) 庄はバスの窓から空を見げ、さく呟いた。

過ちを犯しても、己の愚かさに気づき、虚飾を捨ててを啜る覚悟があれば、はいつからでもやり直すことができる。 というは、どんなに乗るかではなく、どんなで歩むかによって、どこまでも続いていくのだから。

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