みかん小説
本棚

"月30万円の親孝行は、誰の財布から?" 第5話

「俺の」という錯覚と、親戚への見得

その夜、帰宅した達也は、ダイニングテーブルのに置かれた枚の類に目を留めた。 まず、の期講習のプリント。 「万千円……? おいおい、塾代だけでまたこんなにかかるのかよ。公にかせたがないじゃないか」 達也は顔をしかめ、満げにを鳴らした。 「が志望に格するために、どうしても必な講座なのよ」私が静かに告げると、達也は「ったく、ばっかりかかるな」と吐き捨て、プリントを裏返してしまった。娘の将来に対する真剣な議論から、彼は秒で逃げしたのだ。

次に、義母からのに目をやった。 「母さんから野菜が届いたわ。も入っていたの。『万円なんては受け取れない、活を壊さないで』っていてあったわよ」 私がを指差すと、達也は斜め読みしただけで、鬱陶しそうにテーブルの端へ追いやった。 「母さんは昔から慮の塊みたいななんだよ。だから気にしなくていいんだって。俺がドカンと万送ってやれば、最初は驚いても、最は絶対にぶに決まってるんだから」 「でも、お義母さんは――」

私の言葉を遮るように、達也のスマートフォンがけたたましく鳴り響いた。 画面を見た達也の顔が、パッと誇らしげに輝いた。 「お、田舎の叔父さんからだ。

広告

ちょっと待ってろ」 達也は子をち、リビングの窓際へ移して通話ボタンを押した。話の相は、義母の弟にあたる本の叔父だった。

「もしもし、叔父さん! あ、はい、達也です! ……ええ、母さんから聞きましたか? そうなんですよ、母さんの活のことは、俺が全部面倒を見ることにしましたから!」 達也の声は、普段の倍ほどきく、自信に満ち溢れていた。 「ええ、毎万ずつ送します。物価もがってますし、男の俺がしっかり支えないと親父にも顔向けできませんからね! え? いやいや、うちの嫁も働いてますし、計には分余裕がありますから配いりませんよ! 従兄弟の健よりも、俺の方がしっかり親孝してみせますって!」

窓際で響く夫の自げな声を聞きながら、私の全から体温がスッと引いていくのをじた。 ――従兄弟の健さんへの対抗。 本の親戚に対して、「京で成功し、母親に毎万円を仕送りしている甲斐性のある男」として君臨したいという、っぺらで見苦しい見栄。 夫が万円という異常な額に固執した本当の理由は、母親への純粋な慈などではなかった。 親戚から賞賛されたいという、自らの肥化した虚栄を満たすためだったのだ。 しかもその見栄の原資として、私の労働と料が、当たりのように「うちの嫁も働いてるし」

広告

という言葉で差しされていた。

通話を終えてテーブルに戻ってきた達也は、嫌でビール缶のプルタブをけた。 「ふう! 叔父さんも驚いてたよ。『達也は派な跡取り息子だ』って褒めてくれた。なあ美奈子、やっぱり男は見栄を張ってナンボだよな!」 「……そう」 「は午休を取って、半に駅ので母さんと待ちわせしてるんだ。窓で続きするから、活費座の通帳と印、しといてくれよな」 達也は当然の権利のように命じた。

私は無言でちがり、サイドボードの引きしから、使い古された活費座の通帳と印鑑を取りした。 今、私が自分の与から振り込んだのは、がの必最限の活費だけ。 夫が親戚に見得を切った「万円」など、この通帳のどこを探してもしない。 「はい、これ」 私が渡すと、達也は通帳のをいて確認することすら切せず、無造作に通勤鞄のサイドポケットへ突っ込んだ。 「よし、これではバッチリだ。母さんをさせてやるよ」

達也はをいながら、テレビのバラエティ番組に目を向けた。 その無防備で傲な横顔を見つめながら、私はので静かに宣告した。

(、あなたのその偽りのは、の窓で跡形もなく崩壊するわ)

だが――このの私はまだらなかった。

翌、へ向かった夫が直面するのは、単なる「残の恥辱」などというぬるいものではなく、がを揺るがす、像を絶する「もうつの秘密」の引きになるということを――。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: