みかん小説
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"月30万円の親孝行は、誰の財布から?" 第16話

喉までかかった言葉

「さ……万円……」 達也はノートにかれたその数字を凝したまま、言葉を失っていた。 自分が母親を救うために必だと信じ込んでいた「万円」というが、いかに母親の活実態を無した、空虚な見栄の塊であったか。その落差のあまりのきさに、打ちのめされていた。

その、私の胸の奥底で、染み付いてきた古い悪癖が、ふわりとをもたげそうになった。 (……万円なら) 私のので、計算が勝に回り始めた。 (万円なら、私の取り万円のから、し買い物を切り詰めればせない額じゃない。私が『お義母さん、その万円なら私が毎しますからしてください』と微笑んで財布をけば、今こので、すべての問題は丸く収まるんじゃないかしら……)

夫の面子もこれ以潰れずに済む。 義母もし、がには再び波のたない平穏な常が戻ってくる。 いつものように、私がをかぶり、私がしだけすれば――。

「お義母さん、その万なr――」

喉までかかったその言葉を、私は奥歯を噛み締めて、力任せにみ込んだ。 膝のでねていた両を、爪がくなるほどく握りしめる。 (ダメよ、美奈子。絶対に、それだけは言っちゃダメ)

私のをよぎったのは、リビングのテーブルに置いてきた、の万千円の期講習のプリントだった。

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そして、これから陸にかかる受験の費用、学学の費用。 もし私がここで「私が万円します」と言ってしまえば、何が起きるか。 義母は、息子夫婦の計を圧迫したという罪悪を背負い続けることになる。 そして何より――夫の達也は、『やっぱり美奈子が何とかしてくれた』と胸を撫でろし、自分の銭覚の狂気にも、族への甘えにも向きわないまま、再び魔法の財布に寄りかかってき続けるのだ。

妻が先回りして尻拭いをすることは、優しさではない。 それは、夫から「自したのとして責任を負う会」を永に奪う、共依の毒でしかないのだ。

私は喉元までがってきた言葉を完全に胃の底へ押し戻し、静かに目を閉じて呼吸をした。 そして、隣に座る達也の横顔をじっと見つめた。 今、このでをくべきは、私ではない。 母親に見得を切った、息子である達也自なのだ。

達也は、ノートの「万円」という数字から目をせずにいた。 背を丸め、握りしめた拳を震わせている。 「母さん……俺、本当にバカだったよ……」 絞りすような夫の声が、静かな畳に落ちた。

「母さんがこんなに爪にを灯して暮らしてるのに……俺は輩に酒奢っていい気になって、ゴルフの具買い替えて……その、親戚にいい顔したいからって万送るなんて叩いて……」

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達也の目から、粒の涙がボロボロと溢れし、畳のに黒い染みを作った。 「全部、俺の見栄だったんだ。母さんの活なんて、何つ見ようとしてなかった……。美奈子の料を当てにして、自分の痛みを伴わない親孝をしようなんて……俺は、最のだよ……」

ふみ子さんは、泣き崩れる息子の背に、シワだらけのをそっと置いた。 「気づいてくれたなら、それでいいんだよ、達也。親孝っていうのはね、をドカンとよこすことじゃないんだ。こうして私の顔を見に来て、緒に活のことを考えてくれる……それだけで、母親は分に幸せなんだよ」

達也は両で顔を覆い、子供のように声をげて泣いた。 その背を見つめながら、私はので静かに息を吐いた。 私が財布をかなくて、本当によかった。 この痛みと恥辱こそが、夫が目にして初めて通過しなければならなかった、本物の「の通過儀礼」だったのだから。

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