みかん小説
本棚

"妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘" 第11話

だけの朝と作りのお伝い表

婚の続きが正式に完し、え切った婚姻関係に法な終止符が打たれてから、ヶのが流れていた。 季節はの音を濃く残すの初旬、まだ夜けの張り詰めた空気の、介は午半に目覚まし計の音でね起きた。 以の活であれば、咲の嫌を損ねないよう息を潜めて起きていただったが、今の部には凍りつくような緊張はどこにもない。窓のは群青の静寂に包まれ、え切った台所につ介の息はく濁っていた。

「よし……今も頑張らないとな」 介は呟き、を擦りわせて気ポットの湯を沸かした。 介が勤める堅物流企業では、事を汲んだ司の配慮により、残業のない事務管理部への部署異が認められていた。与面での当はわずかに減ったものの、午半の定退社が原則となり、幼稚園の延保育の迎えににう活リズムが確されていた。

さなまな板ので、卵をつ割る。汁と量の砂糖、そして醤油を垂らして菜箸で軽に溶きほぐす。 フライパンにく油を引き、ジュウとよい音をてて卵液を流し込む。 咲がいた頃は、朝の用も弁当作りもすべて介がでこなしていたが、当は常に「く作らなければ鳴られる」

広告

という怯えがつきまとっていた。だが今は違う。のさな掌に収まる段ねの弁当箱に、どんな彩りを添えようかといを巡らせる、穏やかなだった。

タコさんウインナーを本焼き、茹でたブロッコリーにマヨネーズを添え、真んには甘い卵焼きを切れ詰める。最に、の好物である鮭のふりかけを米の面に散らした。 「ふう、できた」 介が額の汗を拭ったその、パタパタと廊を駆けてくるさな音が響いた。

「お父さん、おはようございますです!」 ドアの隙からひょっこりと顔をしたのは、お気に入りのピンクのフリースを着ただった。寝癖のついた髪をで押さえながら、満面の笑顔で台所へ駆け寄ってくる。 「おはよう、。まだだぞ、もうし寝ててもよかったのに」 「はもう起きたです! 今もやることがいっぱいあるですからね!」

は誇らしげに胸を張り、蔵庫の側面にマグネットで留められた枚の画用を指差した。 そこには、クレヨンで歪なマス目が引かれ、部にたどたどしい平仮名でこうかれていた。 『はるのおてつだいひょう』。 「じぶんのくつをそろえる」「たべたおさらをはこぶ」「おもちゃをかたづける」というつの項目が並び、できたには介が赤いペンで丸をつけるルールになっていた。

広告

「昨の夜、靴をちゃんと揃えたから、丸をつけて欲しいですよ!」 「よし、確認しよう。……おお、完璧に揃ってるな。はい、きな丸!」 介が赤ペンをらせると、は「やったです!」とびねてんだ。 かつて咲がのを支配していた、は母親の顔ばかりを伺い、自発に何かを主張することはほとんどなかった。だが、だけの活が始まってから、は驚くほど活になり、父親を助けようと健気にするようになっていた。

テーブルに向かいって座り、温かい噌汁とトーストをべる。 「お父さん、今のお弁当は何が入ってるですか?」 「ふふ、けてからのお楽しみだよ。でも、の好きな黄いアレは入ってるぞ」 「卵焼きですね! 、お父さんの卵焼きが世界で番好きですよ!」 無邪気に笑う娘の瞳を見つめながら、介の胸の奥に、かつてない温かな幸福が満ちていく。 母というを失わせた傷は、完全に消えたわけではないかもしれない。それでも、この子の笑顔を絶やさないためなら、どんな苦労も背負っていける――介は静かにそう誓っていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: