"十八年勤めた売り場を追われた日、恩返しが始まった" 第7話
崩れ落ちたエリート
森はに両をつきそうになりながら、必に絞りすように言った。
「で、ですが会……川さんは、ただの契約社員です! 本部の経営方針としても、件費削減と若返りは至命題で——」
「ただの契約社員だと?」
藤堂の目が、鋭く細められた。
その、フロアのエスカレーターから、音を荒らげて駆けりてくる団があった。
丸デパート本社の営業本部と、事担当常務だった。藤堂品からの突然の全納品止の報を受け、本社のトップ自らが血相を変えてんできたのだ。
「藤堂会! 変なご無礼をいたしました!」
本部が息を切らしながら、藤堂のでくをげた。しかし、藤堂は本部を瞥しただけで、線を再び森へと戻した。
「本部、ちょうどいいところに来た。あなたの部であるこの森は、、このデパートとが社がどうやって取引を始めたのか、その歴史すららんらしい」
本部の顔が、瞬で気へと変わった。
「まさか……会、そのお話は……」
「そうだ」
藤堂はゆっくりと、売りの奥で呆然とち尽くしていた川千鶴の方へと歩み寄っていった。
「川千鶴さん。のことを覚えているかね」
千鶴の脳裏に、いの記憶が馬灯のように蘇った。オープンしたばかりの慌ただしい売りで、売れ残ったな幕の内弁当を抱え、泣きそうな顔でち尽くしていた、の初老の男性。
広告
「まさか……あのお弁当を作っていらした、藤堂さん……?」
「そうだ。私だよ」
藤堂は静かに頷いた。
「あの、私の会社は倒産寸だった。どこへっても相にされず、このデパートからも契約を打ち切られそうになっていた。そんな、働き始めたばかりのあなたが、私のお弁当をべて『美しい』と言ってくれた。作りのPOPをき、お客様ひとりにそのを伝えてくれた。……あなたがいてくれたから、藤堂品は今までき残ることができたんだ」
フロアのあちこちから、息を呑む音が漏れた。
森はを半きにしたまま、直していた。自分が「ただの契約社員」「代わりはいくらでもいる」と見し、ゴミのように切り捨てた相が、実はこのデパートと藤堂品を結びつけた、最の功労者だったのだ。
藤堂は本社の営業本部に向き直った。
「本部。が社がこの、スーパーや系列の百貨からの破格の独占契約をすべて断り、貴社に最優先で商品を卸し続けてきた理由を、ごだな」
本部は直のまま、汗を流して答えた。
「はい……代の経営陣から、『あの売りには、が社の原点を支えてくれた恩がいる』と、厳格に申し送りを受けておりました……」
「その恩を、貴社のは『齢だから』『契約社員だから』という理由だけで、昨、方に解雇を言い渡した。
広告
それも、格を否定するような暴言を浴びせてね」
藤堂の言葉に、本部は森を猛然と睨みつけた。その線には、りを通り越した殺すら滲んでいた。
「森……! 貴様、何ということをしてくれたんだ……!」
「ひっ……ぶ、部、私は……本部のコスト削減方針に従っただけで……!」
「黙れ!」
本部のが森を打ちのめした。
藤堂は静かに、しかし決定な宣告をした。
「本部。川千鶴さんがこの売りからるというのであれば、が社がこのデパートに商品を卸す理由も、今この瞬をもって完全に消滅する。契約の即解除、および現の全取引の見直しを、正式にめさせていただく」
「お、お待ちください、藤堂会!」
本部はに額が擦り切れるほどくをげた。
「すべては弊社の監督き届きでございます! 川さんの契約解除は、今こので即座に撤回いたします! 森については、直ちに職を解任し、懲戒委員会にかけて然るべき厳罰をします! ですから、どうか……どうかお取引の継続を……!」
売りの力関係は、完全に逆転していた。
権力を振りかざし、のを蹴にしていたが、今や自らの浅はかな愚によって、会社命そのものを絶たれようとしていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
義母に突き落とされたので、離婚します
十九年間、義母の虐待と夫の無関心に耐えてきたさつき。妊娠中、義母に階段から突き落とされ重傷を負うが、夫は愛人と過ごし、彼女の訴えを切り捨てる。 病室でさつきが残したのは、離婚届と「あなたが守らなかったものを、私は守ります」の一文。元刑事の父と証拠を集め、義母を実刑へ、夫を失職と離婚へ追い込む。因果応報|怒り|嫁姑|修羅場1.4万字5 168 -
完結第12話
空港に置き去りにされた妻は、もう帰らない
欧州出張から帰国したゆりを、夫と義母は成田空港へ置き去りにした。「四時間歩いて来い」と笑いながら、彼女を貧しいラーメン屋の娘だと見下して。 彼女は、夫の不倫や会社資金四千八百万円の横領を示す証拠を、すでに揃えていた。 空港から一本の電話をかけた三時間後、取引停止が相次ぎ、夫の会社は大混乱に陥る。嫁姑|夫婦|修羅場1.8万字5 685 -
完結第20話
結婚翌朝、五分遅れの朝食が暴いた秘密
結婚翌朝、朝食が五分遅れただけで、夫から親族全員の前で平手打ちされた管理栄養士の美咲。彼女は謝る代わりに、義父の御膳を床へひっくり返し、「食べさせられません」と告げる。 美咲が遅れたのは、心臓病を患う義父のために味噌汁を作り直していたからだった。義母から渡された“秘伝のタレ”には、義父の薬と組み合わさると命に関わる危険な成分が含まれていた。 しかも瓶の底には、義母自身の筆跡で《服用厳禁/致死性不整脈誘発確認済》と残されていた。単なる嫁いびりではなく、八年前から続く恐ろしい企みが明らかになり、夫と親族の立場は一気に逆転する。怒り|嫁姑|夫婦|裡の顔|修羅場1.9万字5 1427 -
完結第20話
月30万円の親孝行は、誰の財布から?
夫から突然告げられた、義母への「毎月三十万円」の仕送り。妻・美奈子は反対せず、静かに「いいよ」と答えた。 三日後、銀行で残高四万円を知らされた夫は激怒する。だが美奈子は、二十二年間で家計へ補填した一千二百万円超の記録を並べ、「その三十万円、誰の収入から出すつもりだったの?」と問い返す。嫁姑|夫婦|介護|金銭問題2.8万字5 16 -
完結第20話
路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算
娘の顔合わせに路線バスで訪れた庄三は、相手の両親から「車も持てない乞食」と嘲笑される。婚約者まで黙って見ていたため、庄三はわずか五分で破談を告げた。 しかし庄三の正体は、県下一の交通グループを一台の中古バスから築いた創業者。翌日、社運を懸けた大型工事のコンペ会場で、相手親子は上座に座る庄三と再会する。職場逆転|人生逆転|第二の人生|金銭問題2.6万字5 137 -
完結第15話
白米だけの夕飯を出されたので、家を出ました
年度末の仕事を終えて帰宅した麻子を待っていたのは、冷めた白米だけの夕食。夫と義母は特上寿司を食べながら、「反省したらおかずを出す」と笑った。 「外で牛丼でも食べてきたら?」という夫に、麻子は静かに「分かりました」と答える。しかし彼女は半年前から新居や弁護士の手配を進め、大切な荷物も運び終えていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|修羅場2.0万字5 156 -
完結第12話
母に贈った家を狙う親戚夫婦
母への恩返しに建てた家へ帰ると、親戚夫婦が勝手に住み着き、食卓を囲んでいた。しかも二人は近所に「自分たちの新居だ」と触れ回り、家まで奪おうとしていた。 裕子は怒鳴らず、警備会社への一本の電話をきっかけに、入退室記録、録音、登記、映像を着実に集めていく。 これは家を取り戻すだけでなく、断れずに生きてきた母が初めて「ここは私の家です」と声を上げる物語。静かな反撃と、母娘が本当の安心を取り戻す再生の一篇。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場1.8万字5 1821 -
完結第12話
二十六年目の告白
余命わずかな夫・浩司は、妻ゆみに衝撃の告白をする。二十六年前、ゆみが産んだ息子と愛人の子を、病院で密かにすり替えたというのだ。 だが、ゆみはすべてを知っていた。夫の行動を目撃し、名札を元へ戻していたため、浩司が愛人の子だと信じて溺愛してきた誠は、紛れもなくゆみの実子だった。夫婦|真相|親子関係|修羅場|不倫1.7万字5 1298 -
完結第16話
赤いガーベラと私の家
母の形見の絵を嫁に勝手に売られ、家事を当然のように押しつけられてきた50歳の愛子。限界を迎えた彼女は、母の保険金で購入した小さな家へ一人で移り住む。 ところが長男夫婦は、新居まで「実家」と決めつけ、家事をしてもらうつもりで強引に引っ越そうとする。愛子は荷物の受け取りを拒み、専門家の助言を得て、同居を認めない意思を書面ではっきり示す。 やがて母の絵は親切な購入者の手によって戻り、愛子は長男夫婦に「この家にあなたたちの部屋はない」と告げる。彼女が去った古い家では、夫も息子夫婦も、これまで愛子が背負っていた家事の重さを初めて知ることになる。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|金銭問題1.6万字5 707