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"母の遺品と千万円の組紐" 第4話

「くなった、母の遺品です」

俺がそう答えた瞬、反物の端に触れていた彼女の指が、はっきりと震えた。

「お母様の……」

女主は唇を噛み締め、何かな言葉を探すようにい沈黙に沈んだ。そして、慎に言葉を選びながらをいた。

「あの……買い取りという形ではなく、まず、この反物と組紐を、私にしだけ預かせていただけないでしょうか?」

「預ける……ですか?」

「はい。調べたいことがあるんです。どうしても、私の目で確かめておかなければならないことが……」

「あの、預けると言っても……勝にどこかへ売られたりするわけでは……」

「とんでもありません! きちんと正式な預かり証を発いたします。絶対に汚したり傷つけたりしないとお約束します」

俺は呆然としてち尽くした。

駅のリサイクルショップでは束文の古布扱いだったものが、なぜこのではこれほどまでに丁に、畏怖を込めて扱われるのか。

「あの……これ、そんなに珍しいものなんですか? 俺には、ただの古い布にしか見えないんですが」

「今はまだ、確たることは申しげられません。ですが……軽々しく値段をつけていいようなものではない。それだけは確かです」

「ただの古布じゃないんですか?」

「ええ。なくとも、私の目にはそうは映りません。……もし、私の見てが正しければ、ですが」

彼女はそこで言葉を切り、もう度、おしそうに反物の折り目に線を落とした。

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その、台の脇にっていたすみれが、さな差し指で反物の端を指差した。

「これね、ばーばがおで縫ってたやつだよ。お部いっぱいに布を広げてね、ハサミでこうやって、チョキチョキっていつも見てたの」

「おばあ様が、これを仕てているところをで見ていたの?」

「うん! それでね、たまに『ここ、うまくいったわ』って、でニコニコしてたの。あとね、『これは事なにあげるんだよ』って言ってた!」

「事なに……?」

「うん。誰かは教えてくれなかったけどね!」

女主の瞳のが、さらにく変わった。何かに激しくを揺さぶられたような、畏敬のに満ちた表だった。

「……失礼ですが、お母様のお名を伺ってもよろしいですか?」

「……野幸恵、と言います」

俺が母の名を告げた瞬、女主はさく息を呑み、両で元を覆った。

目を見いたまま、しばらくのようにかなくなった。まるで、探し求めていた伝説の名に、いがけない所で巡りってしまったかのような顔だった。

「あの……母をごなんですか?」

「……直接、お目にかかったことはありません。ですが、そのお名は、ずっと……」

彼女はそこで言葉をみ込み、胸元にを当ててく呼吸をえた。そして、居まいを正して俺に向き直った。

「申し遅れました。私、このの主を務めております、紗英と申します」

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「……俺は、野輔と申します」

「輔さん。どうか、しだけおをいただけないでしょうか。きちんとお話しできるよう、準備をさせてください。それまで、この反物とお紐を、責任を持ってお預かりいたします」

「……分かりました。よろしくお願いします」

俺は紗英さんから、墨で丁寧にかれた預かり証を受け取った。達な文字で反物と組紐の特徴が記されている。なぜ自分のような落ちぶれた男が、こんなにも礼儀正しく扱われるのか、まるで呑み込めないままだった。

「お姉さん、ばーばのこれ、事にしてくれる?」

すみれが首を傾げて尋ねると、紗英さんはふわりと目元をらげ、すみれの目線まで屈み込んだ。

「ええ、すみれちゃん。おばあ様の切な宝物、を込めてお預かりするわね」

「うん! よろしくね!」

をると、裏の空は夕暮れの濃い茜に染まっていた。

たくなったすみれのを握りしめながら、俺ののは疑問で渦巻いていた。母の遺品に、体何が隠されているのか。

「パパ、あのお姉さん、なんであんなにびっくりしてたの?」

「……さあな。パパにも、よく分からないんだ」

「でも、すごく優しそうなだったね」

「ああ、そうだな」

あの反物と組紐の正体は何なのか。

ただつ確かなのは、あれがリサイクルショップの員が言ったような「ただのゴミ同然の古布」

ではないということだった。俺は、母のことを何ひとつらなかったのではないか。

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