みかん小説
本棚

"母の遺品と千万円の組紐" 第7話

「本当?」

「ああ、本当だ。すみれの笑顔が、パパの番のお薬なんだよ」

「お薬? じゃあ、いっぱい笑ってあげる!」

すみれは両での端をきく引っ張り、「いーっ!」とおどけた顔を作って見せた。

「えへへ! どう? 元気た?」

「……ああ。ばっちりたよ」

俺は娘を抱きしめた。涙がこぼれそうになるのを必で堪えた。こんなところで折れているじゃない。この子の無邪気な笑顔を守るためなら、を啜ってでもき延びてみせる。

そのだった。

テーブルので、古いスマートフォンがけたたましく震えた。

画面を見ると、『糸柳呉』の文字が表示されている。臓がねがった。俺は震える指で通話ボタンを押した。

「もしもし!」

『輔さんでしょうか。糸柳呉の紗英です。変お待たせして申し訳ありませんでした』

「あ、いえ! あの……預けた品のこと、何か分かったんでしょうか?」

『はい。切なお話しがございます。度、おまでお越しいただけないでしょうか。できれば……すみれちゃんも、ご緒に』

「分かりました! すぐに向かいます!」

話を切った、俺はしばらくそのからけなかった。

底れぬ絶望の底に、かすかな、けれど確かな条のが差し込んできたような気がした。

へ向かう、俺はどうしてもち寄りたい所があった。

、母がで暮らしていた古いアパートだ。

広告

から引き払いを急かされているわけではなかったが、まだをつけていない荷物が残されていた。

アパートの建つ古いへを踏み入れると、母の部の隣にある、昔ながらのさな荒物雑貨の先に目が留まった。埃をかぶった箒やザルが並ぶそのの引き戸がガラリとき、腰の曲がった柄な老婦が顔をした。

老婦は俺の顔をまじまじと見つめ、驚いたように目を見張った。

「……あんた、もしかして、幸恵さんの息子さんかい?」

「あ、はい……野輔と申します。は母が変お世話になりました」

「やっぱりそうだ! 幸恵さんに面がそっくりだよ。私は。幸恵さんとはね、このので何も隣同士で仲良くやってたんだよ」

「さん……母のか何かでお名を拝見したことがあります」

「まあ、幸恵さんが私の話を! 嬉しいねえ」

さんはシワだらけの顔を綻ばせ、俺とすみれを狭い内へと招き入れてくれた。奥から丸子をしてすみれを座らせると、ガラス瓶からきなハッカ飴をつ取りし、すみれののひらに握らせてくれた。

「すみれちゃん、きくなったねえ。おばあちゃんもね、よくこの子に腰掛けてお茶をんでたんだよ」

「ばーば、ここに来てたの?」

「来てたとも! 来るたびにね、『すみれがこんなにお喋りするようになった』『すみれが笑ってくれた』って、嬉しそうに自話ばっかり聞かされたもんさ」

広告

「ばーば、すみれのお話してたの?」

「いっぱいしてたよ。世界で番の宝物だってね」

さんは目を細めて懐かしそうに語り、それからし声を落として仏壇にをわせるようにをげた。

「お葬式にも顔をせなくてすまなかったね。私も腰がすっかり参っちまって……。あんなにいいが、私より先に逝っちまうなんてねえ……」

「いえ、お気持ちだけで分です。ありがとうございます」

俺が々とをげると、さんは何かをいしたようにちがり、の奥の箪笥から、古い布に包まれた細い包みを持ってきた。

おしそうに包みをくと、から本の細い帯締めが現れた。

いと、朝桜のような淡い桃の絹糸が緻密に組みわされ、目を見張るような沢を放っている。素の俺が見ても、息を呑むほど美しい紐だった。

「……これ、幸恵さんが私のために組んでくれた帯締めなんだよ。私の、涯の宝物さ」

「これを……母が?」

「そうさ。私のの祝いにね、無理を言ってお願いしたんだ。そしたら幸恵さん、週も寝るを惜しんで組んでくれてね。お礼のを包もうとしたら、『友達からなんて取れるかい』って笑って、びた文受け取らなかったんだよ」

「週も……」

「あのの組紐はね、国宝級だよ。私は昔、本の呉の末端で物を見てたから分かるんだ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: