みかん小説
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"母の遺品と千万円の組紐" 第9話

「すみれ、これをってるのか?」

「うん! ばーばがね、『これは事な事な箱だよ』って見せてくれたの。お姫様のお宝物みたいに綺麗なんだよって」

「そうか……」

「ばーばね、『これはすみれのお守りになるんだよ』って言ってた。困ったはね、これを見れば、ばーばがすぐそばにいるから丈夫だよって」

「そんなことを……」

「うん。だからね、『パパが困ったにも、これを見せてあげてね』って。ばーば、すみれにお願いしてたんだよ」

俺は言葉を失った。

母は、この最の宝物を、息子の俺には直接渡さず、孫のすみれに託していたのだ。母を傷つけ、ざけていた俺の頑ななプライドを傷つけないよう、すみれのを通して俺を救おうとしていたのだ。

帯留めを部のかりにかざしてみると、台座の裏側に、針の先ほどの極の刻印があることに気づいた。文字なのか記号なのか、素の目には判別できなかったが、母が己の仕事の証として刻み込んだものだということだけは分かった。

すみれを再び寝かしつけた、俺は母の遺品箱をもう度、底の底まで漁った。

具や布のをかき分けると、番底から、表の擦り切れた冊の学ノートがてきた。

頁をめくると、几帳面な文字で、びっしりと記録がき込まれていた。

『鼠 玉 座〇〇様』

『利休茶 平組 祇園〇〇様』

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付を見れば、俺がまだランドセルを背負っていたから、母が倒れる直の最に至るまで、も途切れることなく続いていた。

趣などという易しいものではない。何もの歳、母はこのさな部で、本の美の頂点を支える途方もない仕事を、たったで背負い続けていたのだ。俺が「古臭い」と言い放ったあのも、母はこのノートに記録をつけ、糸を繰り続けていたのだ。

翌、俺は帯留めとノートを抱え、すみれを連れて再び糸柳呉を訪ねた。

迎えてくれた紗英さんは、俺たちを奥の静かな座敷へと通してくれた。俺は震えるで桐の箱をけ、帯留めを差しした。

紗英さんはい袋をはめ、慎に帯留めを掌に乗せた。ルーペを取りし、組紐の目を、台座の彫刻を、息を止めて見つめる。

やがて、彼女はく、震える息を吐きした。

「……やはり。違いありません。お母様の作品です」

「分かるんですか……?」

「ええ。この極限まで均に締められた組紐の密度、そして……この台座の彫です。お母様は、組紐の技術だけでなく、彫――属芸の極めて度な技法まで修めていらしたんです。この両方を最準でで完結できる職など、今の本にはもう片で数えるほども残っていません」

「母が、彫まで……」

「台座の裏をご覧ください。

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このさな刻印は、お母様がご自の最傑作にだけ遺される、雅号の印です。『胸を張って、これが私の仕事だ』と言える、真の品にしか打たれなかったものです」

あの夜、読み取れなかったさな刻印。それは、母の職としての魂の署名だったのだ。

紗英さんは、奥から預かっていた反物と組紐を持ってきて、畳のに広げた。

「輔さん、落ち着いて聞いてくださいね。……この反物、そして添えられていた組紐は、現では再現できる技術者が途絶えかけている、極めて貴な文化財級の品です。もし専の収集や目利きが競りえば……この組紐本だけでも、数百万円、によっては千万円を超える値がつく世界です」

「い……千万……!?」

俺はを疑った。リサイクルショップで数百円と言われたものが、千万。

「信じられないかもしれませんが、これが本物の価値です。見る目を持たないにはただの古布に見えても、本物をるからすれば、喉からがるほど欲しい至宝なんです。お母様のお名は、この世界では『あのの紐でなければ』と、語り継がれてきた伝説なんですよ。私のき父も、ずっと『野幸恵さんの紐は別格だ』と、憧れの差しで語っていました」

紗英さんの言葉が、い鉛のように胸に落ちてきた。

あのの紐でなければ――そう称えられた至の技術を、息子の俺は「古臭い」

と切り捨てたのだ。

紗英さんは、俺が持参した母のノートをそっといた。

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