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"母の遺品と千万円の組紐" 第10話

頁をめくる彼女の指先が、嘆に震えていた。

「……素らしい記録です。何もの、切の妥協なく注文を受け続けてこられた証拠です。輔さん、お母様の本当のお仕事を、ぜひっていただきたい方々がいます。いうちに、このにお集まりいただけるよう、私から声をかけてみてもよろしいでしょうか?」

「集まる……ですか?」

「ええ。お母様の紐を、何もし続けてこられたお客様方です」

紗英さんが声をかけてから。

再び糸柳呉を訪れた俺は、のに広がる異様な景に息を呑んだ。

細いに、品な着物にを包んだ婦たちが何もっていた。内に入りきらないほどの勢の女性たちが、静かに集まっていたのだ。

「輔さん、こちらへ」

紗英さんに導かれて座敷にがると、集まっていた婦たちが斉に俺に向かって々とをげた。

「あなたが……幸恵さんの息子さんですか」

「お母様には、どれほどお世話になったか分かりません」

「私が締めているこの帯締め、見てください。幸恵さんが私の嫁入りのために組んでくださったものです。これでないと、母の形見の帯が落ち着かないのですよ」

名の奥方、老舗旅館の女将、国宝の染織の妻。集まった々は、々に母への謝と追悼の言葉をにした。

「幸恵さんはね、どれほど素らしい仕事をなさっても、決して法なお値段をお取りにならなかったの」

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「もっと受け取ってくださいとお願いしても、『私にはこれで分ですから』って笑って首を振るばかりで……」

「お代のことよりも、締めるが本当に笑顔になれるかどうか、そればかりを気にかけていらっしゃる方でした」

婦たちの言葉のつひとつが、俺のらない母の姿を鮮やかに描きしていった。

こんなにもくの々にされ、尊敬され、必とされていた母。それなのに、俺は母を「代遅れの寂しい老」だと決めつけ、憐れみ、蔑んでいたのだ。恥ずかしさに、元が崩れ落ちそうだった。

その、の配の女性が俺のに歩み寄り、静かにを握ってきた。

「幸恵さんはね、でお茶をいただくたびに、いつも仰っていたのよ。『息子と孫のために、私はまだまだ働かなきゃいけないの』って。息子さんの話をなさるだけは、女のように目を輝かせていらっしゃいましたよ」

「俺の……話を……?」

「ええ。『息子は今、婦の世界で派に頑張っているのよ。あの子のセンスは私譲りなの』って、誇らしげに語っていらっしゃいました」

界が完全に滲んだ。

古臭いと切り捨てた息子の仕事を、母はくから誇りにい、自にしてくれていたのだ。

「輔さん」

紗英さんが、静かに語りかけてきた。

「この方たちは皆、お母様の素らしい技術が、ここで途絶えてしまうことをから惜しんでいらっしゃいます。

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もし……あなたにその志があるのなら、お母様の技術と名を、継いではいただけないでしょうか」

「俺が……継ぐ……? でも俺には、何の技術も識もありません……」

「最初からできるなんていません。お母様だってそうだったはずです。何より、あなたにはお母様の血が流れ、お母様へのいいがある。それが番切なんです」

座敷を見渡すと、集まった婦たちが、温かい期待に満ちた差しで俺を見つめていた。

母が遺したものは、や物だけではなかった。本の組紐を通して紡ぎされた、ととの目に見えない温かい絆。その巨な遺産が、今、俺の目のに広がっていた。

そのの夜、自宅に戻った俺のの奥には、婦たちの言葉が霊していた。

『息子と孫のために』。

記憶が、代の頃のあの実の景へと引き戻される。

――母さん、そんな古臭いもの、今誰も使わないよ。

あの、母が浮かべた静かな微笑み。

あれは、りを抑えた笑みでも、諦めの笑みでもなかったのだ。流の世界で目を輝かせて働く息子の姿を眩しく誇りにいながら、同に胸を刺された痛みを、あの微笑みの奥にそっと畳み込んで隠していたのだ。

あの以来、母が俺ので組紐の話を切しなくなった理由。さんが言っていた、息子が帰ったに寝込んでいたという話。

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