みかん小説
本棚

"母の遺品と千万円の組紐" 第12話

糸が自ら収まるべき所へ、優しく導いてあげるのです」。

何も台に向かい続けるうち、指先は擦り切れ、ぶくれが破れて血が滲んだ。それでも俺はを止めなかった。指先の痛みをじるたびに、母が何もの、この痛みに耐えながら笑顔で糸を組んでいたのだというみが、胸にく染み込んできたからだ。

制作の、俺はもうつの問題に決着をつけることにした。

滞納賃と、放置され続けたアパートの修繕問題だ。

俺は母の遺品のにあった過数分の賃と管理費の領収をすべて洗いし、建物の老朽化と修繕放置の履歴をノートにまとめた。アパレル代に培った管理数理の識を活かし、管理会社の担当者を部に呼んだ。

「この建物は、から規模修繕の積が徴収されているにもかかわらず、漏りすら半以放置されています。契約にある善管注義務にに違反しています。未払いの賃は全額お支払いしますが、これまでの修繕義務履分と相殺し、直ちに根の修繕事をう旨、を交わしていただきます」

理然と数字と契約条項を突きつける俺の気迫に、担当者は圧倒され、最終に平謝りしてに署名した。滞納していた賃は母の遺産から綺麗に清算され、漏りの事も翌週からわれることになった。

広告

これですみれと暮らすを追われる配はなくなった。俺たちの元が、ようやくしっかりとに着いたのだ。

をヶに控えたある、紗英さんから紹介された業界の鎮たちが、糸柳呉に集まった。

そこで俺に告げられたのは、驚くべき事実だった。

母が、呉問に納めていた作品の報酬や、母が独自に考案した組紐の匠権のロイヤリティが、母の座に付かずのまま積みてられており、その総額が数千万円に達しているというのだ。

「お母様は、ご自の贅沢のためには銭も使われませんでした」

鎮のが、鏡を押しげながら静かに語った。

「すべて、息子さんとお孫さんの未来のために遺された資産です。輔さん、お母様の残された技術と志を継ぐをちげるのなら、業界としても全面にバックアップいたします」

数千万円の資産。

『これを見て、困ったの支えにしなさい』という母のの真が、ここでも証された。母は最初から、俺たちを涯支え抜くための礎を、で築きげてくれていたのだ。

俺はそので涙を呑み、決をにした。

「このおを、ただ消費するために使うつもりはありません。母の技と名をこの世に残し、必とする々に本物の組紐を届けるためのを作ります。

広告

号は……『糸すみ』と名付けたいといます」

母の糸と、娘のすみれの名を結んだ。

集まった々は、温かい拍で俺のを祝ってくれた。

の準備と並して、祝い着の仕てと帯締めの制作は佳境に入っていた。

さんが集めてくれた所のお針子仲たちが座敷に集まり、賑やかな笑い声ので針をめていく。

そんなあるの夕方、の入りに、幼い女の子のを引いた若い女性が、おずおずとち尽くしていた。着ているはくたびれ、を寄せうの姿に、かつての俺とすみれの姿がなった。

「あの……どうかされましたか?」

「すみません……仕事を探していて、貼りを見て……でも、子連れじゃ無理ですよね……」

聞けば、夫の借から逃れ、つで職とまいを失いかけている本恵さんと、歳の娘・咲奈ちゃんだった。

俺は迷うことなく言った。

「うちで働きませんか? 子供の賑やかな声がする方が、このには似うんです」

恵さんは涙を流して謝した。

すみれはすぐに咲奈ちゃんのを引き、「緒にお紐作ろう!」と座敷へ連れてった。母の遺した糸を使って、すみれが咲奈ちゃんに組紐の結び方を教えている。

母の技が、すみれのへ。そしてすみれのから、また別のさなへ。

温かい縁の糸が、確実に紡がれていく景がそこにあった。

の夜。

俺は、仏壇ので最の組み目を結び終えた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: