"姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした" 第2話
追い返されるはずの嫁
澄乃は言い訳をしなかった。
ここで嘘をねてもがないとったからだ。もし追い返されるなら、それも仕方がない。篠原へ戻ったところで歓迎されるはずはないが、の名を使ったままこのに居続けるよりはましだった。
「私は篠原澄乃です。玲子の妹です」
畳に両をつき、澄乃は父から命じられたことをすべて話した。玲子が縁談を嫌がったこと、美津が代わりに澄乃をかせようと言いしたこと、父もそれを認めたこと。支度についてまで隠さなかった。
話し終えても、静はらなかった。
横に控えていた配の使用の方が落ち着かなかった。主の婚約者として迎えた娘が、実は別だったのだから当然だった。
「旦様、篠原へ使いを――」
使用がをきかけた、静が片をげた。
「必ない」
そして澄乃に向き直る。
「構わない」
澄乃はが分からず、顔をげた。
「……何がでしょう」
「おで構わないと言っている」
あまりにも簡単な言葉だった。
鳴られる覚悟も、へ送り返される覚悟もしていた澄乃には、その方がかえって理解できなかった。
「ですが、先方を欺いたことになります」
「欺いたのはおか?」
「いいえ。ですが、私はったうえでここへ来ました」
静はそこで初めてわずかに眉をかした。
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「断れば、篠原に居所はあったのか」
澄乃は答えなかった。
沈黙そのものが答えになったらしい。
静はそれ以追及せず、女に客をえるよう命じた。
「今は休め。話はにする」
それだけ言うと、静はちがった。
澄乃はわず呼び止めた。
「どうしてですか」
静が振り返る。
「普通なら、るところではないのですか」
「る必があるにはる」
「今は違うのですか」
静はしだけ考えるように澄乃を見た。
「なくとも、おだけを責める理由はない」
その夜、澄乃は広すぎる客でほとんど眠れなかった。
静が何を考えているのか分からなかったからだ。酷な男だと聞いていたのに、鳴りもせず、篠原へ抗議もしない。それどころか、代わりだとりながら「構わない」と言った。
翌朝、朝を終えた澄乃のところへ女がやって来た。
「旦様がお呼びです」
案内されたのは座敷ではなく、敷の奥にある仕事部だった。
壁面に帳面が並び、机のには類が積まれている。静はそのから冊の分い帳簿を取りし、澄乃のへ置いた。
「読めるか」
澄乃は戸惑いながら表をいた。
商いの帳面だった。仕入れ、売、運送費、倉の維持費。項目は細かく、幾つものの数字がまとめられている。
「通りは」
「見てみろ」
何を試されているのか分からなかったが、澄乃は数字を追った。
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初めの数頁には特に問題がない。しかし途で仕入れ数量と支払額がわない箇所を見つけた。さらに頁を戻ると、同じ取引先への支払いがに記録されている。
澄乃は机の隅に置かれた算盤を借り、指をかした。
つ。
つ。
つ。
「ここが違っています」
澄乃は帳面を静の方へ向けた。
「この仕入れ量なら、この額にはなりません。それから、こちらは同じ伝票が度入っています。もうつは運送料の計算がの率のままです」
部が静かになった。
静は帳面ではなく、澄乃の顔を見ていた。
「どこで覚えた」
「のです」
「篠原では娘に帳簿を触らせるのか」
「玲子姉さんには触らせません」
澄乃はし迷ってから続けた。
「私には触らせていました。正確には、ほとんど私がつけていました」
静の目が細くなった。
「何だ」
「ほどです」
「?」
初めて静の声にらしいものが混じった。
澄乃は事を説した。蔵の帳面を読み始めたこと。数字の違いを見つけたことで父に使われるようになったこと。表向きの帳にはされず、奥で計算だけをさせられていたこと。
静は黙って聞いていた。
そしてつの誤りに印を付けると、別の帳面を取りした。
「これも見ろ」
冊、冊と増えていく。
澄乃は午いっぱい数字を追った。気付けば昼を過ぎていたが、議と苦痛ではなかった。
篠原では帳簿は命令されて触るものだったのに、ここでは静がつつ彼女の見を聞いた。
「この支はどうう」
「倉の修繕費にしてはすぎます」
「理由は」
「同じ職へ払っている以の額と違います。材料が変わったのでなければ、確認した方がいいといます」
静は否定せず、そのまま番を呼んだ。
夕方、澄乃が部をようとすると、静が言った。
「からも来い」
「私が、ですか」
「に誰がいる」
澄乃は戸でち止まった。
「嫁として来たのですが」
「だから何だ」
静は真顔だった。
「帳簿が読める嫁なら、帳簿を読めばいい」
そのから、澄乃の氷での活は、像していたものとは全く違う方向へき始めた。
そして数、彼女は気付くことになる。
静が最初のから、自分が玲子ではないとっていた理由は、顔ではなかった。
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