みかん小説
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"金色の髪を隠して嫁いだ私と、無口な写真師の約束" 第1話

黒いの朝

「その髪を見せたら、今度こそから追いすよ」

昭、歳の橘子は、台所ので叔母のにそう告げられた。目のには縁談の釣が枚あり、相の欄には「篠原湊、歳、写真業」とかれている。は釣の端を指で押さえながら、子のに巻いた拭いを確かめた。髪のえ際には、今朝も竈の煤を油に混ぜて塗り込んだ黒い筋が残っていた。

「写真なんて、変わった男だと聞くけどね。親戚もないし、づきあいもしない。あんたみたいな娘をもらってくれるだけ、ありがたいといなさい」。はそう言って、嫁入りに持たせるものはないとを押した。子は返事をせず、釣の裏側にきされたさな文字を読んだ。「黒髪、健康、事通り」。黒髪という文字だけが、のでひどくたく見えた。

子の母、澄は本で、父のエドワード・グレイは戦の港町で英語を教えていた英国だった。父は子が歳のとき契約を終えて国へ帰り、母は歳のに病でくなった。それから叔母ので暮らすようになった子に、は繰り返し言った。「の髪は化け物の印だ。見せればこのの恥になる」。町の子どもたちは子を「あの子」と呼び、づくと理由もなく声をひそめた。

毎朝、子は誰よりもく起き、煤をすり潰して髪に塗った。

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のにはが落ちるので、学へ通っていた頃も傘をに貸せなかった。歳で学を卒業してからは、の営むさな仕物で裾げや繕いをしていたが、先にはしてもらえなかった。鏡は煤の塗り残しを探すための具で、自分の顔を確かめるためのものではなかった。

「返事はいつまでですか」。子が尋ねると、は眉をげた。「もう話はんでいるよ。来週、顔わせだ」。それなら自分に釣を見せたのは、相談のためではない。子はを裏返し、余に鉛で記された数字を見つけた。万円。が急いでを奪い取ったので、それが何の額かは聞けなかった。

のでは、煤を集めるための皿が竈の隅に置かれていた。子がそれを洗おうとすると、は決まって「まだ使うんだよ」と叱った。煤を塗った髪はになると汗で首筋を汚し、い襟を何枚も染めた。それでも子は、汚れた襟を縫い直すことより、の筋をに見られることを恐れていた。

昼過ぎ、子は仕物を届けにく途で、駅の写真館のを通った。古びた硝子窓には入学式の子どもや結婚したばかりの夫婦の写真が並び、奥の暗い内には誰の姿も見えない。篠原写真館と彫られたの板ので、子はち止まった。自分を写すことなどないとっていた所に、これから嫁ぐのだという実が、遅れて胸に落ちてきた。

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子は釣の万円がかられず、帰りに町の呉の値札を眺めた。で何働いても、自分の自由になるはわずかだった。万円がきなだということだけは分かる。その数字を叔母が何の相談もなくいたことが、縁談そのものより子をにさせていた。

そのとき、写真館の奥から男がてきて、のに置かれた除けの板を直した。背はいが華やかさはなく、袖には薬品のい染みがあった。子が会釈すると、男は度だけこちらを見て、無言で会釈を返した。嫌いと噂される篠原湊だろうか。子はその目が自分の髪ではなく、に抱えた仕物の包みに向いたことを議にった。

夕方、が所のに縁談を自している、子は釣をもう度に取った。万円の数字のには、「支度、先渡し」と続いていた。が自分をく嫁がせたがる理由は、世体だけではないのかもしれない。子は釣を元の所に戻し、顔わせのまで返事をしないと決めた。初めて自分で決めたさな抵抗だった。

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