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"金色の髪を隠して嫁いだ私と、無口な写真師の約束" 第3話

にほどけた

婚礼はの終わり、写真館の階で内だけを招いてわれた。は子に黒い髪を隠すようを押し、いを飾った髪留めまで用したが、子は自分で縫い直した淡いの着物を選んだ。母の裁縫箱からてきた古い絹糸で、袖のほつれを直したものだった。佳乃はその縫い目を見て「よいをしている」と褒めた。

昼過ぎからがり始め、式が終わる頃には軒先の樋があふれていた。は々に帰り、佳乃も隣町のへ戻ったため、階には子と湊だけが残された。子は荷物を片づけようとして、に濡れた襟に指が触れた瞬、背がたくなった。指先に黒い煤がついていた。鏡をのぞくと、こめかみからのろへ、の髪が細い川のように現れていた。

「すみません」。子は反射にをげた。湊は戸でを止めたが、何を謝られたのか分からないようだった。「髪が……黒くないんです。叔母さんには、見せるなと言われていました」。子は袖で髪を隠そうとした。湊はづかず、廊のかりをし落としてから、「洗うためのお湯を持ってきます」とだけ言った。

しばらくして、洗面器と清潔な布が運ばれてきた。湊はそれらを洗いに置き、扉を閉めてへた。子はしばらくったままだったが、やがて拭いをし、ぬるま湯を髪にかけた。

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黒いが何度も流れ、い洗面器の底を汚していった。煤を落とすたびに、叔母の鳴り声がの奥でよみがえったが、誰も扉を叩かなかった。

鏡に映った髪は、濡れた麦の穂のようなをしていた。歳まで母が櫛を通してくれたときの触をいし、子はわず目を閉じた。母はこの髪を嫌がらなかった。夜、寝で髪をほどくと「おさまのみたい」と言ってくれた。その記憶が本当だったのか、いのに子は確信を失いかけていた。

湊は階段ので待っていた。子が乾いた布をにかけてりると、彼は湯呑みをつ並べていた。「、写真館の帳簿を見せます。仕事の順も、しずつ覚えてください」。髪については何も聞かなかった。子が「驚かないんですか」と尋ねると、湊はしばらく考えてから答えた。「驚きました。でも、驚くことと、嫌うことは違います」。

その夜、子は自分の部を与えられた。古い箪笥とさな机があり、窓からはに濡れた裏庭が見えた。湊は「鍵は内側から掛けられます」と言い、寝具を運んでから廊へがった。夫婦なのだから同じ部で眠るのだと覚悟していた子は、いがけない静けさに戸惑った。彼の気遣いが優しさなのか、単にづきあいを避けているだけなのか、まだ分からなかった。

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子はしい部で眠れず、何度も窓のを見た。夜にがくなったとき、根の音に紛れて泣いてしまったが、朝には議と胸が軽かった。誰かの音におびえて髪を塗り直す必がない。それがどれほどきな変化か、静かな部にでいるうちにようやく分かってきた。

翌朝、子はく起き、髪を黒く塗るために竈を探した。しかし台所の棚には煤を集めた皿がなく、代わりにの櫛としい拭いが置かれていた。湊が買ったのか、佳乃が用したのかは分からない。子はそれらをに取ってから、黒く塗らずに階段をりた。の通りにる勇気はまだなかったが、のでだけはのままでいたかった。

帳に入ると、湊が古いネガをに透かしていた。彼は子に気づいてを止め、袋のを閉じようとした。その袋の隙から、川辺にしゃがむ女のろ姿が見えた。女の髪は、朝のを受けて淡く輝いている。子は自分でも理由が分からないまま、「その写真を見せてください」と言っていた。

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