"金色の髪を隠して嫁いだ私と、無口な写真師の約束" 第12話
写真館の賃
翌週、片桐の叔父である主から、写真館の賃貸契約をで終えたいというが届いた。理由は建物の修繕とかれていたが、湊が修繕の内容を尋ねても、具体な返事はなかった。の裏庭には現像用のがあり、暗の設備も壁にわせて作ってある。簡単に移れる仕事ではないことを、子も数週で理解していた。
湊はを読み、すぐにを閉めると言いさなかった。まず主に直接会い、修繕の必な箇所を確かめ、契約の条件について相談することにした。子は同を申したが、湊は「あなたまで嫌ないをする」とためらった。その言葉を聞いた子は、初めて夫に腹をてた。「私の写真がきっかけで起きた話なのに、私をに置かないでください」。
湊はしばらく黙り、「守ろうとして、また勝に決めました」と言った。子はその率直な言葉に驚き、りがし収まった。は翌、主のを訪ね、の理由を尋ねた。主は片桐に頼まれていたことを隠しきれず、の祭りの協力を断るなら別の借りを探すとにした。湊は話しいの内容を帳に記し、子も付を控えた。
写真館に戻ると、佳乃が古い図を広げて待っていた。「駅裏に空き舗がある。も引けるし、賃は今よりしい」。そのは以、雑貨だった所で、所者は井しのの息子だという。
広告
佳乃は勝に話をめず、まずに見にくかと尋ねた。子は即座にうなずいた。誰かに追いされるのを待つのではなく、自分たちで次の所を探したかった。
主との話しいから帰った夜、湊は古いの柱に刻まれた背丈の印を子に見せた。子どもの頃、父が毎つけてくれたものだという。湊がを放したくない理由を、子は初めてった。移転を選ぶことはいを捨てることではないと分かっていても、湊にとって簡単な決断ではなかった。
空き舗は駅からしれた細いにあり、板は傷み、壁には古い棚の跡が残っていた。暗に使えそうな部はあったが、事と遮の費用が必だった。湊はの広さを測り、子は窓の向きとの通るを確かめた。しい所には、以のよりきな飾り窓があった。子はそこで、しのや初枝の写真を並べる様子を像した。
ただし移転費用は簡単にはせなかった。湊の父が残した具の修理代がかさみ、カラー写真の注にもがかかる。子は自分の賃を貯めていた封筒を取りしたが、湊はすぐには受け取らなかった。「あなたの蓄えは、あなたが困ったときのために持っていてください」。子はその言葉をうれしくいながらも、仕事を緒にしている以、の将来を考える権利もあると伝えた。
広告
古い写真館には、湊の父が撮った町の祭りの写真が何枚も残っていた。子はそのに、まだ若いと母の澄が同じ通りを歩く姿を見つけた。は顔を見わせて笑っており、のをる子には議な景だった。町もも変わっていくからこそ、写真を残すがあるのだとった。
は子の賃との利益を分けて記帳し、移転に必な費用を細かく計算した。佳乃は無理な借を勧めず、の予約客を増やす方法を考えるよう助言した。子はしのの写真をいし、働くの姿を撮るさな企画を提案した。「写真を撮ってもらう理由が、結婚や入学だけでなくてもいいとうんです」。湊はその案を聞き、初めて子に企画をいてみるよう頼んだ。
その夜、子は机に向かい、「町で働くたちの写真」と題して撮の案内を作った。料は通常の記写真よりし抑え、希望者には仕事具と緒に写ってもらう。展示するかどうかは撮に本が選び、断ったの写真は飾らない。子はその条件を番にいた。の端には、湊の字で「いい企画です」とさく添えられていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 58 -
完結第21話
昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由
昭和二十九年、上棟式の朝。棟梁・源吉は、自ら建てた家の柱に異変を感じ、祝いの客の前で斧を振り下ろす。内部から現れたのは、黒く傷んだ木だった。 仕事も信用も失いかける中、娘が見つけた不自然な印と、材木置場の青年の証言から、粗悪材の印を改ざんして売る仕組みが明らかになる。しかし源吉自身も、十分に検品せず判を押していた。時代|歴史|昭和2.7万字5 47 -
完結第20話
桑の音が消えた村
昭和三十五年、信州の養蚕村で、蚕が一夜にして全滅する。唯一無事だったのは、昔ながらの方法にこだわり、村人から笑われていた七十八歳のトヨの蚕室だった。 疑いを向けられた祖母だったが、原因は共同散布された新しい薬剤にあった。しかも農事組合を率いる息子・慎造は、事前に危険性を知らされていた。時代|歴史|昭和2.5万字5 78 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 227