"金色の髪を隠して嫁いだ私と、無口な写真師の約束" 第17話
さな展示会
展示のの朝、駅裏の空き舗にはまだしいの匂いが残っていた。子は母の青い布を壁の部に掛け、そのにしのの写真を飾った。写真のには「井しの、歳、畑と裁縫」とかれている。しのは文字を読んでし照れ、「畑はもう息子に任せているよ」と笑ったが、写真をしてほしいとは言わなかった。
午、最初の客が来た。文代の堂の常連で、いつもは写真館に縁のない男だった。彼は文代が鍋を持つ写真のでち止まり、「こんな顔をして働いていたのか」とつぶやいた。文代はしれた所でそれを聞き、笑いながら掛けの紐を結び直した。子はのやりとりを見て、写真がのらないを見せることがあるのだとった。
昼過ぎには子どもたちが来て、祖母や母の写真を指さした。自分の族が写っているとった子は、何度も同じ写真を見に戻った。初枝の写真のでは、若い娘が「私も縫い物を習いたい」と話しかけていた。子は展示の案内を渡し、撮したときの話をく説した。自分の髪を見つめるもいたが、写真の話を始めると線は自然に壁へ向かった。
展示の入には、さな帳面を置いてをいてもらった。あるは母の仕事を初めてったと記し、別のは自分も写真を残したいといた。
広告
子はつずつ読み、撮した本にも見せてよいか確かめた。展示をくまで気づかなかったが、写真を見るの言葉もまた、次の仕事につながっていくのだった。
午、片桐がの男を連れて現れた。観振興会の腕章をつけ、展示を通り見たで、子のところへ来た。「ったよりが入っているじゃないか。やはり髪の嫁は客を呼ぶ」。子は静かに首を振った。「今来てくださった方は、写真に写っているたちに会いに来たんです」。片桐は笑い、わざときな声で「板娘を隠すなんてもったいない」と言った。
その言葉を聞いて、しのがゆっくりづいてきた。「板なら、私の写真で分だよ」。しのは自分の写真のにち、片桐に向かって笑った。「この町でもきてきたんだ。しぐらいを呼べるだろう」。周囲にさな笑いが起こり、片桐は返す言葉を失った。子はしのに礼を言おうとしたが、しのは「写真を撮ってくれたお礼だよ」とを振った。
片桐はそれでも引きがらず、観の葉の話を蒸し返した。「枚くらい売ったって、誰も困らないだろう。町のためになるんだ」。子は用していた注文の写しを取りし、使用を許していないことをもう度伝えた。「私が写っているから嫌なのではありません。許しを求めず、勝に名と約束を作ったことが嫌なんです」
広告
。湊も隣にち、写真の原版は自分が保管していると説した。
原印刷所の慎が、展示の案内を届けに来たついでに話を聞いていた。慎は片桐に向かい、葉の本刷りはっていないこと、見本の配布も止めてほしいと何度も伝えていることを話した。片桐は顔をしかめたが、周囲には写真の被写体本とその族が集まっていた。誰も声をげず、ただ片桐の返事を待っていた。その沈黙に耐えきれなくなったのか、片桐は「分かった」とだけ言い、連れの男と帰っていった。
夕方、展示を見に来た元の記者が子に話しかけた。「の髪の話も記事にしてよいですか」。子はし考え、「髪のことをくなら、私がどういう仕事をしているかもいてください」と答えた。記者は帳をき、しのや文代にも話を聞いた。子は自分の写真だけがきく載るのではないかとだったが、取材の終わりに記事の趣旨を確かめ、展示のことをにしてほしいと伝えた。
客が帰った、子は壁の写真を枚ずつした。しのは自分の写真を持ち帰り、文代は堂に飾る分を追加で注文した。さな箱に集まった注文票を見て、佳乃が「これなら移転の費用もし楽になる」と言った。子は疲れたを伸ばし、湊と緒に空になった壁を見た。
そこには何も残っていなかったが、今交わされた言葉は、簡単には消えない気がした。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 58 -
完結第21話
昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由
昭和二十九年、上棟式の朝。棟梁・源吉は、自ら建てた家の柱に異変を感じ、祝いの客の前で斧を振り下ろす。内部から現れたのは、黒く傷んだ木だった。 仕事も信用も失いかける中、娘が見つけた不自然な印と、材木置場の青年の証言から、粗悪材の印を改ざんして売る仕組みが明らかになる。しかし源吉自身も、十分に検品せず判を押していた。時代|歴史|昭和2.7万字5 47 -
完結第20話
桑の音が消えた村
昭和三十五年、信州の養蚕村で、蚕が一夜にして全滅する。唯一無事だったのは、昔ながらの方法にこだわり、村人から笑われていた七十八歳のトヨの蚕室だった。 疑いを向けられた祖母だったが、原因は共同散布された新しい薬剤にあった。しかも農事組合を率いる息子・慎造は、事前に危険性を知らされていた。時代|歴史|昭和2.5万字5 78 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 227