"桑の音が消えた村" 第2話
葉の裏に残ったもの
桑畑は昨夜のを受けて、朝を鈍く返していた。沿いの畝には緑の葉がなり、目には何も起きていないように見える。トヨは共同作業をした畑の端でち止まり、枝先の枚を指で挟んだ。葉の表には細かな斑があり、裏に回すといのような跡が見えた。子は昨、噴の先からがちのぼるのを眺めていたが、散布の葉をこんなふうに確かめた者がいたかはらなかった。
「虫を退治する薬を撒けば、桑をべる蚕も平気とは限らん」。トヨがそう言うと、原田はすぐ反論した。「組でちゃんと聞いてきた薬だ。おさんの古い勘と緒にするな」。トヨはらなかった。「わしは薬が何でも悪いとは言わんよ。ただ、桑は蚕の飯だ。何を撒いて、いつ採ったかが分からん葉をわせたらどうなるか、先に確かめるもんだ」。
父の慎造が、役から借りた自転で坂をってきた。子は父の顔を見るなり、昨の散布のことを聞こうとした。ところが父は先にトヨへ向かい、「母さん、余計なことを言ってを混乱させんでくれ」と言った。「県のに連絡した。原因は調べてもらう。それまでは決めつけるな」。トヨは息子のにある帳を見た。「おが何を使ったか分からんはずはないだろう」
慎造は答えず、男たちを連れて集会所へ向かった。
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子は祖母と、桑畑に残った。祖母は畝のを歩きながら、のや葉のみを見せた。昔は蚕の病がれば、母親たちが蚕箔を分けて様子を見たこと、餌の葉を別々の所から採って与えたこと、同じでも棚ごとに症状が違うことがあると話した。
「ばあちゃんの蚕だけ元気なのは、薬を撒かなかったから?」と子が聞くと、トヨは首を振った。「そうかもしれん。でも今、言い切ったらいかんよ」。畑の段にはトヨのさな桑畑があり、杉林を挟んで共同散布の畑かられている。子は子どもの頃、何度もその畑で葉を摘んだ。祖母のは傾いたも直さず、古い籠を繕って使っていたから、若い組員たちには何もかも遅れているように見えた。
昼、子は佐のへ戻った。佐はんだ蚕をしずつに包み、き残りを別の箔に移していた。歳の娘・が、炭で湯を沸かしながら母を見ている。「繭が取れなきゃ、に兄ちゃんの制も買えないね」とが言った。佐は叱るでも慰めるでもなく、「今はその先のことまで言わんでおくれ」とだけ答えた。
子は坂をる途、昨の作業で伝ったことをい返した。誰かがを汲み、誰かが噴を押し、若い者たちが畑の端へ目印の杭を打った。皆、仕事がく終わったことをび、夕方には組ので茶をんだ。
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子もそのだった。祖母が独りで桑を摘んでいるのを見て、古いことばかりしているとってしまった自分の気持ちを、今は恥ずかしくじた。
帰宅すると、母タカが夕飯用の麦を研いでいた。父は台所の隅で帳簿を広げ、組の損失を計算している。子が「薬の袋はどこ」と尋ねると、慎造は顔をげた。「なぜだ」「使い方を見たい」「県の指導員が見る。おが見ても分からん」。子は引かなかった。「私にも桑を摘ませたでしょう。私が採った葉をべて蚕がんだなら、りたいの」
慎造は帳を閉じた。「皆がうまくいくようにとってやったことだ。おまで俺を責めるな」。タカがのに湯みを置いたが、子は父の最の言葉が気になった。原因がまだ分からないのに、父はすでに自分が責められることを恐れている。それが何をするのか、子にはまだ分からなかった。
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