みかん小説
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"桑の音が消えた村" 第3話

帳面につけなかった忠告

目、県の先から養蚕指導員の庭がへ来た。い鞄と靴を持ち、まず被害のたを軒ずつ見て回った。若いたちは即座に原因を言ってほしがったが、庭は蚕の状態だけで断定せず、桑の刻、葉を採った畑、掃除や消毒の方法まで聞き取った。子はその横で、父が集めた数字をき写す役を頼まれた。

「同じ、同じに具が悪くなったからといって、理由がつとは限りません」。庭は坂の桑の葉を袋へ入れ、対照としてトヨの畑からも採取した。「から入った薬の響かもしれないし、蚕そのものの病も調べる必があります。今は被害を広げないよう、葉のどころを混ぜないことが切です」。子はその言葉を帳の余にいた。

夕方、庭は集会所で散布に使った薬剤の容器と説を見せてほしいと言った。慎造は共同倉庫へ鍵を取りにったが、戻るまで妙にがかかった。持参したのは空の瓶本と濡れた包みだけで、肝の説は見当たらないという。組の会計係・野は、「買ったに付いていたはずですが、捨てたかもしれません」と曖昧に答えた。

子は野の言い方に引っ掛かった。野は几帳面な男で、肥料袋のひもまで使いを決めてしまうようなだった。

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仕入れのを残さないはずがない。会議が終わった、子は倉庫の棚を探し、梱包に使われた麻縄と板箱を見つけた。板箱には販売の所と、組が予定していた注文品とは異なる品名の部が残っていた。

「そこには触らん方がいい」。背から声がした。振り向くと野の息子・健がっていた。歳の健は農業をてからへ戻り、組の帳面を伝っている。子とは学以来の顔なじみだった。彼は板箱を裏返し、誰にも見えないように置いた。「それは父の仕事だ。今、が荒れてるに騒ぎを増やしたくない」

子は「何かってるの」と尋ねたが、健は答えなかった。ただ、桑畑の方を見て、「俺も散布をした。違いがあるなら、俺の責任もある」と言った。その正直さに、子はかえってになった。責任を持つと言いながら、何が違っていたのかをっている顔だったからである。

夜、トヨのへくと、祖母はき残った蚕を事に世話していた。子が指導員の話を伝えると、「あのは見てから言うだね」とうなずいた。「いいことだよ。何でもく決めたがるに、決めないで待つのも仕事だ」。子は父のことを話しかけ、言葉をみ込んだ。慎造は悪で薬を撒いたわけではない。だが、らなかったで済むかどうかは別だった。

帰ろうとした子を、トヨが呼び止めた。「慎造がの初めに持ってきたがある」。仏壇の脇の引きしから、折り畳まれた古い封をした。差は県の蚕業指導に関わる研究所の職員で、慎造が問いわせた薬剤の取り扱いについて注が記されている。の末尾には、桑直の桑畑への使用を避け、関係関に確認するようにという趣旨の文言があった。

子は読み終えてから祖母を見た。「父ちゃんは、これをってたの?」トヨは目を伏せた。「読んだよ。わしも読んだ。だから、やめておけと言った」。子は膝のの封を握りしめた。父は忠告を受けていた。あの、桑畑で祖母を黙らせようとした理由が、しずつ形になり始めた。

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